余情「っ!」
喧嘩の最中、少しかさついた弾力ある口を口で押した。偶然。
赤い顔で喚かれてうるさい。どうでもいいだろこんくれー。
言葉を吐き捨て乱暴に口を拭った。
琴線に触れたのか周りに止められるまで殴り合いは続いた。
散々だ。
そういえば恋愛に夢みてるんだったか。
前にあいつらが話しているのを耳にした。
好きな女と一緒に登下校したいと…
あれはファーストキスになるんだろうか。
理想がありそうなあいつは認めないだろう。
オレはどあほうと違って夢みてねーからどうでもいーけど。
「………」
ムカつく。
割り切ったのか次の日には溌剌とバスケに打ち込んだ。
もちろん喧嘩もする。
ただ、至近距離になると顔をさり気なく逸らされた。
ムカつく。
だから二人きりの時に組み敷いて噛み付いてやった。
殴ろうともがく腕を床に押し付け唇を食む。
舌が絡む口内は熱くて、足りない。
もっとくれ。
お前を。
人前ではほとんどしない。欲しくてする時もあるけど。
それは掠めるだけのもの。
偶然ではなく必然に。
たまたまではなく確実に。
どあほうは顔をそらさない。
もう。
二人きりの体育館。見回りは当分来ない。
来ても喧嘩してるようにしか見えねーだろうが。
いつも突き出す唇を荒々しく開いて押し当てる。
口の窪みにはまるように顔を斜めにして。
ぴたりとくっついた中は水音と二人の唾液。
荒い息。
熱い。
その顔を向けろ。
その声で呼べ。
オレを。
桜木。
これは誤作動か。
ファーストキスにはなっていない。
こいつの中では。
感触を熱さを覚えるほど重ねた口吻。
…滑稽だ。
鉄の味が舌に広がる。
オレとどあほうの血が混ざり合って。