離さない行方不明のネコメが、
ある日突然帰って来た。
今まで何をしていたのか、
問い詰めようとしたが、辞めた。
きっと、話しやしないだろう。
兄が帰って来た事を、大牙は
喜んでいただろうが、問い詰めて
やりたい気持ちで一杯だろうなと思う。
(帰って来た事は嬉しいはずなのに、
酷くモヤモヤする…)
俺や大牙を置いて、何処に居たのか、
何故突然帰って来たのか、考えてしまう。
何時もの様に、タバコを吸っていると、
ネコメがやって来た。
「あれ?黒曜も休憩?」
「あぁ」
俺がそう言うと、隣にネコメが座る。
タバコに火を着け、ゆっくりと吸う。
吐き出した紫煙は、ゆらゆらと動く。
暫くの間、沈黙が続く。
話す事もなく、黙ってタバコを吸う。
そろそろレッスンに戻ろうと思った時に、
ネコメが声をかけてきた。
「黒曜、今度時間空けておいて〜」
俺はネコメの方を向き、
「あぁ、分かった」と返事をした。
「じゃあ、また今度ね~」
そう言いながら、去って行った。
俺もレッスンに戻った。
後日、ネコメと一緒に夕飯を食べた。
その後、俺の家に行く事にした。
途中、コンビニに寄って、
ビールやつまみを買う。
ビールを飲み終わり、つまみも食べ終わり、
片付けを終え、座る。
タバコを吸っていると、
ネコメが声をかけて来た。
「黒曜、今、恋人はいるの?」
その問いかけに、思いっきり噎せてしまった。
ネコメが、優しく背中を擦ってくれた。
「な、何を…聞いてきやがる…」
若干涙目になりながら、ネコメを見る。
「ん~?気になったから」
あっけらかんと言う。
俺が今までどんな気持ちで
いたかなんて知らないで。
タバコを灰皿に入れて、
ネコメの方に向き合う。
「俺の恋人は、ネコメ、昔も今もお前だけだ」
少し声が震えていたかもしれない。
コイツには、新しい恋人がいる
可能性がある。
途端に、怖くなった。
また、居なくなるんじゃないかと。
俺や大牙を置いて、もう二度と
帰って来なくなるかもしれないと。
抑えていた感情が、溢れてきそうだ。
「そっか…。今も、好きでいてくれていたんだ。
てっきり、俺の事を忘れて、新しい恋人が
いるかと思っていたから…」
俺を見つめながら、嬉しそうに言う。
「黒曜、ありがとう…」
そう言って、俺を抱きしめてきた。
少し力が強いが、嬉しかった。
だから俺も、抱きしめ返した。
暫くの間、抱きしめ合っていた。
その後、何度もキスをした。
顔のあちこちにキスをしてきた。
擽ったかったが、それが心地良かった。
どのくらいの間そうしていただろうか。
満足した俺とネコメは、笑いながらベッドに入る。
俺を片方の腕で抱きしめ、
もう片方の腕で頭を優しく撫でる。
「お休み、黒曜」
「あぁ、お休み」
そう言いながら、眠りについた。
Side:ネコメ
眠っている黒曜を見つめる。
普段とは違う、穏やかな顔。
(可愛いな~)
思わずニヤけてしまう。
この寝顔を見る事が出来るのは、
自分だけなのだと。
俺が居なくなって、新しい恋人が
いるのかと思った。
だけど、俺をずっと好きでいてくれた。
それが嬉しくてたまらない。
(好きだよ、黒曜…)
抱きしめ直して、俺も眠りについた。
(もう一生、離さないから…)