揺り籠「山羊を何頭か連れてこい。乳が必要だ」
黒煙がそこかしこから立ち登る街から撤収する間際、バルトスは部下の魔物達にそう命じた。
***
「おお、起きたか。腹が減ったのか?」
地底魔城に戻って一刻もしないうちに、目を開けて泣き声を上げ始めた赤子は、しばらくぐずっていたがそのうち火がついたように泣き出す。顔を真っ赤に染めて全身を震わせて泣くその姿は、地獄の剣豪をも慌てさせる勢いだった。
「よしよし。これはまいったな。乳はまだか」
やっと魔物が絞った乳を器に入れて持ってくる。口元に器を付けてやると、赤子は泣きながらもおぼつかない仕草で必死にそれを飲み始めた。しかし母親から直接もらうのとは違って器からではうまく吸えないためか、吸い付く口が離れてはまた泣きじゃくる。
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