発明家と鬼の小話 この人は、一つ間違えば国の一つや二つ滅ぼしかねない何かになっていたのかもしれない。
エンドロールが流れ出し、舞台はバットエンドで幕を閉じた。
どこかの世界の私達と彼の舞台。
皆が彼に膝を付き、皆が彼を信じ、皆が彼に光を見た。
場所が違えば後に化け狐だとか、洗脳が得意な独裁者、或いは傾国の悪女だなんて捻じ曲げられた歴史で伝わり、崩壊の象徴になっていたかもしれない。
なんとなく、そんな画面の中の素直な彼が気に入らなくて皮肉交じりにこちらの彼に声を掛けた。
「貴方、あんなに素直じゃないですよね」
ゆるりとこちらを向いた傾国が、鼻で笑って席を立つ。
「正直者は馬鹿を見る」
潰れていない方の目を細めてそう吐き捨てた傾国は、国を一つ二つ手玉に取っては一切の間違いなく、稀代の悪として名が通るだろう。
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