陽野あたる
DOODLE恋したくなるお題 様http://hinata.chips.jp/
よりお借りしてます
濡れた瞳は君のサイン じゃあまた、と送り届けた玄関の先で踵を返そうとすると、そっと袖を引かれた。見ると俯いたミツキの指が、肘の辺りを控えめに掴んでいる。
「…………」
柔らかな髪の間から覗く耳が、安っぽい蛍光灯の明かりでもよく解るほど赤く染まっていた。
「どうした?」
我ながら意地が悪い、と思いながらわざと問いかける。顔を覗き込まなかっただけまだ自制した、と思って欲しい。
「あの……」
普段これでもか、とはっきり自分の思っていることや要望を口にするミツキが言い淀んでいるのは、何故か解らないほど鈍くはないつもりだ。それでもまだまだお子ちゃまの彼女から、たまには欲しくて堪らないのは自分だけではないと思えるような何かが得たい、と感じることだって俺にもある。
902「…………」
柔らかな髪の間から覗く耳が、安っぽい蛍光灯の明かりでもよく解るほど赤く染まっていた。
「どうした?」
我ながら意地が悪い、と思いながらわざと問いかける。顔を覗き込まなかっただけまだ自制した、と思って欲しい。
「あの……」
普段これでもか、とはっきり自分の思っていることや要望を口にするミツキが言い淀んでいるのは、何故か解らないほど鈍くはないつもりだ。それでもまだまだお子ちゃまの彼女から、たまには欲しくて堪らないのは自分だけではないと思えるような何かが得たい、と感じることだって俺にもある。
陽野あたる
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キスとキスの合間に いつも手品みたいだ、って感心してしまう。
口唇同士を合わせた始めの方は、私の頬を指先で撫でたり耳殻をなぞってくすぐったり、髪の毛をぐしゃぐしゃに綯い交ぜにしたりしていろんな悪戯をしているくせに、何度も角度を変えて重ねる度に気づけばするりと上着が奪われ、ボタンが外され、ああ、今ブラのホックが外された。
「…………っ、」
思わずきゅっ、と口唇を引き結んでしまったことで未だに慣れない緊張が伝わったのか、ほんの少し離れた閃光が小さく笑った気配がした。
「ミツキ」
普段よりも甘くて、掠れた声が密やかに私の名前を呼ぶ。吐き出された熱い吐息が触れるほどの、
「こっち集中しろ」
柔く食まれて、吸われて、濡れた舌が私を見つけて誘い出す。するりと絡められた指が熱を帯びた掌をなぞり、焦れったいくらいの仕草で素肌に触れた。
954口唇同士を合わせた始めの方は、私の頬を指先で撫でたり耳殻をなぞってくすぐったり、髪の毛をぐしゃぐしゃに綯い交ぜにしたりしていろんな悪戯をしているくせに、何度も角度を変えて重ねる度に気づけばするりと上着が奪われ、ボタンが外され、ああ、今ブラのホックが外された。
「…………っ、」
思わずきゅっ、と口唇を引き結んでしまったことで未だに慣れない緊張が伝わったのか、ほんの少し離れた閃光が小さく笑った気配がした。
「ミツキ」
普段よりも甘くて、掠れた声が密やかに私の名前を呼ぶ。吐き出された熱い吐息が触れるほどの、
「こっち集中しろ」
柔く食まれて、吸われて、濡れた舌が私を見つけて誘い出す。するりと絡められた指が熱を帯びた掌をなぞり、焦れったいくらいの仕草で素肌に触れた。
陽野あたる
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「おいで」とその目に導かれ 無意識の内に視線がその姿を探して後を追う。声を拾おうと聴覚が研ぎ澄まされる。ほんの微かな匂いを捉えるだけで細胞がざわつく。
いくつもあるその厄介な体質の兆候に、チリチリと苛立ちが募った。乱暴に顔を洗って火照る身体を冷まそうとしても、水道水の温度くらいでどうにかなるものでもない。滴る雫をぐいと拭って、もう今日は帰ろうと籠もる熱を散らすように息を吐いた。
ミツキが俺を受け入れてくれたおかげでか、獣耳や尾が顕現するほど酷い症状が出ることは随分稀になったものの、それでも不定期に訪れるこの波を煩わしいと思わずにはいられない。発情期なんてヒトには必要ない。
後世にこんな血など遺伝子など、紡がない方がいいに決まっているのだ。
1449いくつもあるその厄介な体質の兆候に、チリチリと苛立ちが募った。乱暴に顔を洗って火照る身体を冷まそうとしても、水道水の温度くらいでどうにかなるものでもない。滴る雫をぐいと拭って、もう今日は帰ろうと籠もる熱を散らすように息を吐いた。
ミツキが俺を受け入れてくれたおかげでか、獣耳や尾が顕現するほど酷い症状が出ることは随分稀になったものの、それでも不定期に訪れるこの波を煩わしいと思わずにはいられない。発情期なんてヒトには必要ない。
後世にこんな血など遺伝子など、紡がない方がいいに決まっているのだ。
陽野あたる
DOODLE帰宅後によくある風景 ただいまー、と誰にともなく言いながら玄関のドアを潜る。かち、と音を立てて自動的に鍵が閉まった。右手にシューズボックスと傘立て、その上には無香料の消臭剤が入った置物。いつもと変わらない部屋が、人の気配を感知して明かりを灯す。
下のポストに入っていた郵便物と鞄を抱え直したところで、がちゃりとリビングのドアが開いた。向こうからのそり、と閃光が顔を出す。
「お帰り」
「あれ、今日出かけるんじゃなかったの?」
「リスケになった」
「じゃあ暇してたでしょ」
「ん」
オフモードの恋人は珍しくラフな服装だった。もしかしたらうたた寝でもしていたのか、若干ぼんやりした表情をしているのも稀有なことだ。
狭い廊下、その傍らを通り抜けようとして、伸びて来た腕がぐいとミツキを抱き寄せる。突然こうしてぎゅう、と抱き締められるのもいつものことだが、今日は不意に閃光の鼻がすん、と鳴った。しかも一度ではなく数度。
740下のポストに入っていた郵便物と鞄を抱え直したところで、がちゃりとリビングのドアが開いた。向こうからのそり、と閃光が顔を出す。
「お帰り」
「あれ、今日出かけるんじゃなかったの?」
「リスケになった」
「じゃあ暇してたでしょ」
「ん」
オフモードの恋人は珍しくラフな服装だった。もしかしたらうたた寝でもしていたのか、若干ぼんやりした表情をしているのも稀有なことだ。
狭い廊下、その傍らを通り抜けようとして、伸びて来た腕がぐいとミツキを抱き寄せる。突然こうしてぎゅう、と抱き締められるのもいつものことだが、今日は不意に閃光の鼻がすん、と鳴った。しかも一度ではなく数度。