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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    チェズモクワンライ「傷跡」。一緒にお風呂。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■揃いの傷跡


    「はぁ~いい湯だ……」
     二十年に渡る放浪時代や、あのミカグラ島であった一連の事件。その間、ゆっくり湯に浸かるなんて考えられなかった。
     場所はヴィンウェイのセーフハウス、バスルーム。広々とした大理石調のサーモタイルが敷かれた空間。そこに鎮座する大きめの猫足バスタブに湯を張って、モクマは風呂の時間を楽しんでいた。
     実は家主から先ほど連絡があり、『帰りが少し遅くなります』とのことだったので先に風呂を済ませてしまおうと思ったのだ。
     ざば、と湯船から湯をすくって顔に浴びると、生き返るような心地がする。鼻歌でも歌いたい気分だ。ふと顔を上げれば、ラックにはチェズレイが使っているシャンプーや洗顔料、ボディソープのたぐいがずらっと並んでいるのが目に入る。マメな男だなぁ、なんて感想しか出てこない。
     そこへ声が飛び込んできた。
    「モクマさん、入ってもいいですか?」
     ああ、あれか。あの洗顔料、確か洗面所に置いてあるやつだったはず。忘れてたのを取りに来たのかな、なんて思ったモクマは軽く返事した。
    「はいよ。どうぞ」
    「では失礼して」
    「……って、お前どうしたの!?」
     モクマが驚いたのは、チェズレイが胸からバスタオルを巻いただけの姿で入ってきたからだ。
    「どうもこうもありませんよ。今日は無神経な人間にベタベタ触られたので一刻も早く洗い流したくて」
    「あ、あー……そういうことね」
    「ところでモクマさん。あなた入浴剤も入れずに入ってるんですか」
    「えっ……だってどれ使っていいかわからんもん」
     モクマが困って湯に沈むと、チェズレイはため息をついてラックのカゴからバスボムを一つ取り出す。そしてそれをモクマの浸かっている湯に投げ込んだ。すぐに淡い紫の色が広がってしゅわしゅわと溶けていく。花の香りが広がる。たぶんラベンダーだろう。
     それを見てからチェズレイは傍にあるシャワーの栓をひねり、湯を浴び始めた。
     いつ見ても綺麗なんだよなぁ。ぼんやりとモクマがその横顔を見ていると、ふと気づくことがあった。左目の周りを隠しているメイクがなく、そこには痣のような傷がある。
    「あ、その傷……」
     その声にチェズレイはシャワーを止めると長い髪を軽く絞り、「お邪魔しますよ」とモクマの浸かっているバスタブの向かいに入ってきた。
    「ちょ、ちょっと狭くない?」
    「詰めれば入れないことはありませんよ」
     そう言いながらチェズレイが湯に体を沈めると、勢いよく湯があふれて排水溝へ流れていく。そこで彼もひと心地ついたのか、ふう、とため息をついた。モクマはチェズレイの脚の間にいる格好になる。
     モクマは目の前のチェズレイを直視できないで、バスタブの中で縮こまりながら視線を横に向ける。
    「モクマさん」
    「は、はい……?」
     呼ばれておそるおそる視線をチェズレイへ向ければ、そこには湯のせいで白い肌に赤みがさした美青年がいる。目に留まるのは、左肩に残る傷跡。
    「見てください。あなたがつけた傷ですよ」
     そう微笑むと、チェズレイは愛おしそうにその傷跡を見つめて撫でる。それは以前モクマがあの鍾乳洞でつけた傷だ。あの時は無我夢中だったとはいえ、今になって思うととんでもないことをしてしまった気がしてならない。
     それからチェズレイはモクマの方へ体を傾けて腕を伸ばすと、左肩を指先でつついた。そこには以前、サワールを庇って負った弾痕が残っている。チェズレイは考え込むように少し眉をひそめる。
    「……私が直接つけた傷ではない、というのが少々癪に障りますけど――」
     そこでチェズレイは顔をほころばせる。
    「おそろい、ですね」
     その微笑みを見たモクマはもう何を言っていいのか、わからなくなってしまう。
    「……前に、お前さんとは裸の付き合いをしてみたいとは思っていたけど……こんな形でその機会が来るとは思わんかったよ」
    「おや。それは念願叶ったりじゃないですか」
     チェズレイは少し意地悪そうに、童話に出てくる猫に似た笑みを浮かべる。
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