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    高間晴

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    高間晴

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    チェズモクワンライ、「三つ編み」。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■永久の約束


    「モクマさん、私の髪をみつあみにしてもらえませんか」
     寝床を共にするようになって、数ヶ月経ったある朝。ベッドから起き上がり、自分の髪を櫛で梳かしながらチェズレイが言った。それにどう反応していいかわからずモクマが隣で驚いた顔をする。
    「えっ……えっ?」
     その声を聞いて、チェズレイは眉尻を下げて瞳を潤ませるとモクマの顔を見つめた。
    「モクマさァん……」
    「うっ、お前さんその顔したらおじさんが何でもしてくれると思っとらん?」
     怯んだ様子でそう言えば、ベッドの上、シーツにしわを寄せてチェズレイがにじり寄ってくる。じり、と近づかれてモクマは小さな悲鳴を上げた。こちらを見つめてくるアメジストの瞳は、朝のたまご色の光を反射してきらきら輝いている。
    「思っていますが、何か問題ありますゥ?」
     そう言われてしまっては返す言葉がない。モクマは、はーっと肺から空気を押し出すようなため息をつく。それから顔を上げると両手でチェズレイの頬に触れる。壊れ物を触るような手つきだった。チェズレイは以前にも髪を切ってほしいなどと無茶振りをしてきたが、またかといった感じだ。
    「お前さんには隠し通せないよなぁ」
     モクマが過去に短期間だけ寝食を共にした、数え切れない女性たち。その中にはモクマに身繕いを手伝わせようとする者も少なからずいた。今日はどの服を着ればいいか訊ねてみたり、服の背中のファスナーを上げてほしいと言ったり、髪を梳いて整えてほしいと言ったり――というわけでモクマはみつあみくらいならできないことはない。
     自分は特別手先が器用だというわけでもないので、彼女らはそうさせることで自分をもっと身近に感じたかったのだろうと、今ならモクマはそう思う。
     チェズレイは首を傾げてモクマの顔に顔を近づけてくる。近い。
    「ねェ……」
    「わかった、わかったから! ほら櫛貸して」
     観念してモクマがそう言うと、チェズレイはにっこり笑って柘植の櫛を手渡してくる。これは以前にモクマが贈ったものだが、気に入って使ってもらえているようでなんだか嬉しい。
     チェズレイがくるりと背を向けてベッドに座ると、モクマはその髪を梳いた。さすが手入れにもこだわっているだけあって、自他ともに認める国宝級のキューティクルだ。光を弾くプラチナブロンドの髪は細かい櫛の目に引っかかりもしない。
    「おじさんもうこんなの十何年ぶりとかになるから、上手くできるかどうか自信ないよ?」
    「いいんです、それで。あなたがこの先触る髪は、ご自分のと私のだけでいいのですから」
     ああ、そうか。そういうことなんだな。そう思うとモクマは急にこの年下の相棒兼恋人のことがもっと愛おしくなってきた。チェズレイが後ろを向いているときでよかった。自分の顔は多分いま、ゆるみきっているだろうから。
    「後ろに一本のみつあみでいいんだよね? フィッシュボーンとかもあるけどさすがにあれはおじさん無理だから」
    「ええ、そうしてください」
    「仰せのままに、お姫様」
     おどけて言ってからモクマは櫛を置くと、チェズレイの髪束を均等になるよう三つに分けた。意外と肩幅のある広い背中に、ああ、綺麗だけどやっぱり男なんだなと思わされる。そうして要領を思い出しながらゆるまないように少しきっちりめに編んでいく。腰まで届く髪を編むのはなかなかに手間がかかる。
     そうやって最後のあたりまで編んだところで思い出す。
    「あ、チェズレイ。ヘアゴム貸して」
    「どうぞ」
     チェズレイは左手首につけていた黒のヘアゴムをモクマに手渡す。それを受け取って最後の編み終わりの部分の髪をまとめる。
    「ほいっ、できあがり」
     その声にチェズレイは少しこちらを振り返り、モクマの顔を見た。それからみつあみにされた自分の髪の毛先を顔の前に持ってくる。
    「……思っていたより、ずっと綺麗ですね」
    「そりゃお前さん、元がいいから――」
     そこまで言ったところでチェズレイがくるりと振り返ると、モクマの唇を塞ぐようにキスしてきた。
    「朝食はいかがしましょうか、ニンジャさん。
     ――いえ、王子様?」
    「言い替えんでもいいって」
     モクマは照れくさくなって笑う。それからあごに手をやってちょっと考え込む。
    「――そうさなぁ、久しぶりにお前さんの作るべーコンエッグが食べたい、かな」
    「わかりました」
     極上のとろけるような微笑みに、この男に選ばれてよかったなとモクマはつくづく思うのだった。
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