「ささ、チェズレイさん。こちらへどうぞおかけなすって」
スイートルームの一人がけチェアを引いてモクマがチェズレイを手招く。
「ふ、では宜しくお願いしますね」
チェズレイはバスローブの紐を結びながら、椅子に深く腰掛けた。目の前にある鏡越しにモクマと目を合わせる。磨かれた鏡面は曇りひとつなく、施術者の動きを全て映し出す。これならば下手なことはできまい。
――風呂から上がったら肩もみをさせちゃくれんか。寝間着着たままで構わんよ
入浴前に脈略なく出された提案をチェズレイは承諾した。
快諾した理由はみっつある。ひとつに、疲労を労る相棒の優しさに絆された。ふたつに、かつて整体師として仕事をしていた男の腕前に好奇心が疼いた。そして、自身の潔癖へのリハビリを兼ねてだ。
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