一夏の思い出 FINAL KINGDOM QUESTは発売以来、記録的なセールスを叩きだしている人気ゲームだ。自分を反映しつつステータスが向上したり、様々なジョブで活躍できるのがいい。見た目が自分寄りにリアルなのにファンタジーで、全能感を味わえんのが俺は好きだ。で、結構有名人なんかもプレイしてて、運良く出会えたらパーティー組めんのも醍醐味。別に俺は出会い厨じゃねぇし、そこまでミーハーでもねぇから遠巻きに見てるだけだったりするけど。だってさ、規約違反のツール使ってアバターの外見変えてくる詐欺師みてぇのもいるって聞くしさ。だから有名人の外見だからってそれが本人とは限らねーし? 俺は慎重なんだ。うん。それにあくまでゲームとして楽しんでるだけだしな、うん。
レベル上げも順調でクエストで詰まることもないし、初心者の手助けをしてやったり、いつものメンバーと遊んだり…ってちょっと中だるみも感じてたんだけど、今日は一日ヒマだったから朝から、いや昨日の夜からずっとやりこんでて、ふらっと街の方に戻ったらめっちゃくちゃかわいいプレイヤーがいた。街中なのに昨日出たばかりの夏イベの限定アイテム、水着03パレオ付き(ブルー)を見事に着こなしてる。ビキニからおっぱい零れ落ちんじゃねぇの? 脚、パレオで見えねぇけどなっが! サンダルも良く見たら限定アイテムだ…。踏まれてぇとか蹴られてぇとかリアルで思うことないけど、あのお姉さんだったらイイな…。オレンジの短い髪もかわいいし、青い目がめちゃくちゃきれいだ。じっと立ち尽くしてるとこ見ると待ち合わせか? それともパーティー組む相手、探してんのか?
「あ、あの、よかったら俺と回りませんか」
俺は勇気を振り絞って彼女に声をかけてみた。うわ、こっち見た。目、間近で見るともっとすげぇ、吸い込まれそう…。
「少し時間があいてしまったのでね。そうしてもらえると助かる」
ああ、先約があんのか。そりゃそうか…。けど俺にもワンチャンあるってことだ。俺は必死にお姉さんにアピールした。どのステータスを上げたいか、欲しいアイテムはあるか、習得したい技はあるか、聞いてじゃあそれならここに行こう、って出向いた先は今季鳴り物入りでオープンしたホラーハウスだった。
「ここは初めてだ」
「怖いのダメですか?」
「いいや、そうでもないと思う」
強気なお姉さんかわいいけど、ここのホラーハウスはガチで怖いから初心者には向いてねぇし、俺も一番最初に入った時はリアルで悲鳴上げたからな…。おばけで驚かすだけじゃなく結構グロいのが飛び出してくるのがキツい。けど、さっきから一緒に歩いてるだけで注目を浴びるこのセクシーでかわいいお姉さんと入ればラッキースケベも夢じゃねぇかも?! いやいや、別に期待はしてないよ? それにほら、お姉さん全然名前も教えてくれないし、フレコ交換も断られたし、オープンになっているプレイヤー名はMの一文字だけだし。ヤバイじゃん、ヤバイ人の気配がするだろ。これが詐欺師じゃない保証もないんだし、うん。けど、このゲーム、感触もリアルだからな…。ってついつい、むっちりしててそれでいて柔らかそうなおっぱいをガン見してしまう…。ありじゃないのか、一夏の思い出??
ちょうどホラーハウスとモンスター討伐クエストが重なる時間帯で、これはいいとこ見せれんじゃねぇのって思った俺がバカだった。そうか、そりゃそうだ。だって昨日出たばっかりの限定アイテムを複数持ってんだもん。お姉さん、強いはずだ。俺の見せ場なんてありゃしない。ずっとお姉さんの独壇場。つーか、討伐重なるとグロさが増すのな。マジで吐きそう…。
「顔色が悪いな。無理をさせてしまったか」
「い、いえ、だいじょうぶです。おねえさん強いっすね」
アイテムは男共からの貢ぎ物なんじゃねぇかと思ったけど、かなりやりこんでるプレイヤーなんだな…。そういえばよく見てみるとお姉さんの顔、どっかで見たことある気がするな…。上位ランカーの中にはいなかった気がするけどな…。ひょっとして有名人か?
「おかげで楽しい時間を過ごすことができた。感謝する。何か…お返しが出来ればいいのだが」
お姉さんが優しく笑って言うもんだから俺は思わず生唾を飲み込んでしまった。このゲームのいいところはリアルに体験できるところだ。しかも双方合意があればヤることも可能。えっぐいアダルトアイテムもあるくらいだ。こんな美人でエロい身体のお姉さんと知り合うチャンスなんて絶対ねぇし、名前もフレコも教えてくれないけど、お礼はしたいって言うんだから、これは、押せばいけんじゃないのか。やべ、興奮で手が震え…
「りーおーう」
全然、大きな声じゃなかった。ちょっと掠れて小さくて聞き取りにくいぐらいの音だったのに。周りだって騒がしかったのに俺は息も心臓も止ってしまったみたいに動けなくなった。ホラーハウスなんて目じゃない。怖い怖い怖いやばいやばいやばい!声、聞いただけでゲーム機がはずれそうになるくらい汗かいてる。
「左馬刻、銃兎」
お姉さんは嬉しそうに笑ってそう言った。これマジかどっきりとかじゃなくて? マジで? お姉さんが見てる方に視線が誘導されて、怖いけど俺はそっちを見てしまった。うっっっわ、うわ! MAD TRIGGER CREWだ!! ヨコハマディビジョン住みじゃないけどうちのディビジョンは本戦まで進めねぇくらい雑魚だけど、こいつらはマジでヤバイってのは知ってる、つか、常識。嘘だろ、じゃあこのお姉さん…
「待たせてしまいましたか、理鶯」
「早く来すぎてしまっただけだ。だが彼が相手をしてくれたのでね、有意義に過ごすことができた」
やめてーやめてくれ俺のこととか話振らないでくれー! レベルバカ高い騎士団長の入間銃兎が俺の方を見てる。黒衣の剣神、碧棺左馬刻は俺のことなんか目もくれねぇでお姉さん、改め、毒島メイソン理鶯のビキニの胸元のリボンに触っ、え、触ってる、うわっ。
「やっぱよく似合ってんよ」
「さっそく着てみたが動きやすかったぞ」
なるほど、この三人のパーティーならイベント即日突破も可能だな…。
「うちの理鶯がお世話になったようで。ありがとうございます」
うわー入間銃兎だ~…こえええ…こんなのおまわりさんとかぜってー嘘だろ…。この人に詰められたら俺、やってないことも自白するわ。こええ…。
「あ、はい、あの、はは…」
「おい、銃兎。行くぞ」
碧棺左馬刻の声がしてそっちを見たら、お姉さんの腰を、…腰だよな? え、尻? 腰? とにかくその辺りをがっしり抱いてた。お姉さんは俺の方を見て、小さく手を振ってくれた。ああ、俺の一夏の思い出なんて、こんなもんだ。いやでもこれって結構自慢になるんじゃねぇか? けどなー、自慢したところでバレたらなー…。うう、こわ。なんか寒くなってきた…。
終