HUG KISS LOVE 大切な存在が突然消えてしまうのを知っている。記憶の無いその体温は写真を通してしか分からず、別れを予感していても心の準備が出来ないまま遠く逝ってしまった存在を知っている。そして、怒りと悲しみと共にドアを閉ざして、遠ざけた存在を良く知っている。
記憶の無い小さな頃から何度もあった別れはどれも辛くて、痛くて、涙も枯れていつの間にかどこかへ行ってしまった。そう思わなきゃ、前に進んでこれなかった。大切な思い出は痛みを思い出すから宝箱へと全部仕舞って、手元に残ったのは母さんが大切にしていた父親の遺したシャツと、何回もビデオで聞いた父親の得意だったピアノのメロディだけ。
大切な存在はいつだって遠く手の届かない場所へと去って、痛みを残していく。やっと戻ってきても今まで通りとはいかずに、嬉しい気持ちと同時にふとした拍子に悲しみが忘れるなと言いたげに顔を出す。
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