ボツネタシリーズ①
「はい、これキミのだよね?」
声をかけられて振り返ると彼がいた。
結城慶くん。
綺麗な顔立ちで学園内に限らず他校でもモテる、らしい…。
よく色んな女の子と居るって噂を聞くし友達も1度で良い遊びでいいからから相手して欲しいと言ってた。
確かに凄く綺麗な顔立ちで友達の言い分も分かる気がする。
そして彼の手のひらには飴とハンカチが乗っていた。
「よく私のだって分かったね?」
「自販機で飲み物買ってたでしょ?その時落としたの見かけたし、同じ方向歩いてたからついでにね」
どうやらお金を取り出す時に落としたらしい。
気付かなかったおかげでイケメンと話せる機会を得るとは今日は運が良い。
「…なるほど。拾ってくれてありがとうございます。飴はお礼にあげる」
「え、良いの?これウマイよね。遠慮なくいただきまーす、ん、やっぱりウマイ」
ニッと無邪気な笑顔を見せて飴を口にする彼に見惚れてしまう。
パッと見は綺麗な顔立ちに髪色、それにピアスの数…遠巻きに眺めたいイケメンの部類だと言うのにその笑顔を見せられるだけでぐっと近くなったように錯覚する。
②
つい、逃げてしまった…。
でもあんな場面見たら誰だって逃げたくなるに決まってる。
慶くんがモテるのなんて分かってた事なのに。
告白された時に遊んでた子達の連絡先を消して私だけを見てくれてるだけで嬉しかったのに。
一緒に過ごす時間が増えるたびに自分の気持ちが欲張りなってるのが分かる。
最近は女子と話してる所を見るだけで胸がざわつくようになってたのに…。
「慶くんのばか……」
このどうしようもない気持ちをどうすれば良いんだろう?
苦しい…すごく苦しい…。
慶くんの彼女は私なんだから手を出さないで、なんて…思っても何も言えずに逃げ出すのが精一杯の自分が情けない。
「…居たっ!梨宮さん、ごめん!!」
「…っ!けいくん…なんで謝るの…?」
「なんでって…嫌な場面見せたからに決まってるじゃん!本当にごめん…」
「いいよ、別に。慶くんはみんなから好かれてるもんね?急に私だけ相手するようになって面白くない人がいるのも当たり前の話だよね。」
ああ…いやだ、口に出したくない言葉が出てくる。
こんな事が言いたいわけじゃないのに。
でもさっき見た光景が頭の中をぐるぐるする。
慶くんが…相手から抱きつかれる所なんて見たくなかった。
話し声がした時点で察してドアを開ける手を止めれば良かった…。
私がドアを開けた瞬間に見せつけるように慶くんに抱きついたあの子の表情も忘れられない。
私みたいな子に慶くんが本気なわけないじゃんって目をしてた。
ああ、いやだ、また言いたくない言葉が口から飛び出してきそうで意味がないと分かりつつ手で口を押さえてしまう。
「梨宮さん怒ってる…?ごめん、急に抱きつかれて避けられなかったって、こんなの言い訳だよね」
「だから、もういいってば…!私の事なら気にしなくて良いから。」
「いいわけないじゃん。本気で言ってる?」
「……」