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まろんじ

主に作業進捗を上げるところ　今は典鬼が多い

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まろんじ

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星の声

##宇奈七

トラック１

　俺の名はクロロスという。あなたは誰だ？
　これは俺が、和倉七緒という人間に宛てたメッセージだ。もしあなたが彼ではないのなら、これをすぐに彼に渡して欲しい。いっとき聞かせて終わりというのではいけない。これはこの先ずっと、彼が所有すべき記録だ。開封された時点で彼の手に渡る望みがないのなら、すぐに壊して捨てて欲しい。
　あなたの誠意ある行動を期待している。

トラック２

　拝啓。
　日本で正式な手紙を書く際には、このような言葉を初めに付けるのだそうだ。そうしたらその次には、季節に合わせた挨拶を添えるらしい。今日は九月十七日だ。九月ならば「残暑厳しき折」だの、「初秋の折」だのと、これもやはりある程度決まった言い方があると聞いた。だが、今日というこの日に、他でもないお前に宛てて声を吹き込むのだ。万人に対して使える挨拶よりも、お前にしか向けられない言葉を選びたい。
　誕生日、おめでとう。今日で、お前が生まれてから十年が経った。
　俺が買って来た一人分の小さなケーキには、とても蝋燭を十本も立てられそうにはなかった。去年は無理に九本並べたが、斜めに刺さった蝋燭が倒れて、吹き消す前に火が消えてしまう始末だった。だから、今年は数字の一と零の形をした蝋燭を一本ずつ並べて立てた。「可愛いね」とお前が久し振りに笑ったのを見て、俺は嬉しくなったよ。「美味しいから、クロも食べてみて」と言ってくれたのに、断ってしまって悪かった。お前のためのケーキだから、お前一人で食べて欲しかったのだ。
　彼女には持って行くな、と忠告しておかなかったことも後悔している。誕生日だというのに、今日寝る前には、お前は首に幾筋も赤い痕をつけて涙を零していた。だが、俺がベッドの横から顔を覗き込むと、お前は天窓を指差した。「今日はお星さまが五つも見える」と。「窓がもう一つあったら、十、見えるのかな」とも言った。年の数だけ星が見たいか？　そうしたらお前は、これから何億年も生きなくてはならないな。百歳どころでは済まないぞ。――そんなふうに冗談を言おうとした。だが、お前が微笑んでいるのが見えると、声が出なくなった。
　天窓で正方形に切り取られた空だけで喜ぶお前を見るといつも、一度でいいから外へ連れ出したくなる。本当の空はこの天窓から見えるよりずっと、限りなく広い。この建物を一歩出て、土を伝い歩き、海を渡れば、どこまでも行くことができる。「知ってるよ」とお前は答えるだろう。「クロが教えてくれたもの。世界というのは、本当は丸い形をしているんでしょう。だからどこへでも行けるし、どこからでも帰って来られるって。クロ、言ってた。クロはそうして、ずっと旅をしてきたんだよね」と。よく覚えていた、と俺はお前の頭を撫でたくなるだろう。だが同時に、そうではない、と首を横に振りたくもなるだろう。ただ知っているのと、実際に見聞きしたことがあるのとでは、天と地ほどの差があるのだ。お前が今後、本当の空を見て、自分の足で行きたいところを目指して歩く日がやって来ることを願わずにはいられない。
　無論、これを聞く時、お前が何歳になっているかは知らない。誕生日でもない可能性の方が高いだろう。だが、このメッセージはいつ聞かれてもいい。お前がこれを見つけた時が即ち、聞かれるべき時になる。
　これは、俺からお前に宛てた遺書だ。法的な効力を持ち得るものではない。文字通り、死ぬ前に遺す書き置きだ。この目では長い文章を書くのに難儀するから、こうして声を吹き込んでいる。
　実のところ、俺に残された時間はもうあまり長くない。俺は少しばかり、この国の人間を消し過ぎた。あと一人だけ消しておきたい奴がいるが、そいつで最後にするつもりだ。警察が俺に辿りつくのも時間の問題だろう。他の国にいた頃なら、また知らない土地へ渡っていたかもしれない。だが、今はもういい。このまま何もしなければ俺は、この国で死刑にされるか、終身刑になって獄中で死ぬかのどちらかだ。どうやって死ぬにせよ、ここで俺の人生は終わりだ。人殺しとしての人生も、人間としての人生も、もうこの先はない。なくていい。

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