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    真央りんか

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    真央りんか

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    便モ三+ノス。だらだらと会話。ノスはシンヨコだとポンチにあおりを受けた時に、取り繕うため口説くような言葉が出るんだと思う。

     近頃の自称便利モブの会には、時折ゲストが加わるようになった。
     もちろん氷笑卿ノースディンだ。
     初めて彼を迎えたときの互いのぎこちなさはなかなかのもので、初回で終わるかと思われたが、彼は度々姿を見せるようになった。クラージィがたくさん食べる様子を見に来ている。
     ノースディンが何か食べることはないが、酒を持参して、それをやりながら座に混ざるようになった。吉田たちも相伴に預かるようになり、打ち解けるといっていいのかわからないが、クラージィを挟まずとも会話ができるようにはなっていた。今も、眠気を訴えたクラージィはその場で休ませながら、ダラダラと話を続けているほどだ。

    「あ、ノースディンさんて、あの時の…?」
     会話の流れが記憶に結びついて、吉田は深く考えずに口に出した。
     あの時とは、と視線で先を促され、「シンヨコ中の女性に魅了をかけた事件の…」と続けると、ノースディンは気まずそうに咳払いをし、三木は「吉田さん、気付いてなかったんですか」と軽く驚く。
    「いや、あの事件て警報は出てたけど、仕事終わって家に猫といただけだし、そしたら僕はもう何も影響がなかったからさ」
     翌日の午前中は、女性社員は後遺症チェックを受けるのに出社が遅かった者もいた。吉田が直に受けた影響といえばその調整くらいなもので、事件そのものは規模の割に記憶も薄く、名前まで覚えていなかったのだ。
     それにクラージィから聞く話では、ノースディンの能力は氷と雪ということだったので、例の事件とは結びついていなかった。そういえば、例の事件の吸血鬼に氷雪の情報もついていた気がする。
     何よりあの事件で吉田の記憶にあるのは一点だけだった。
    「ということは…ノースディンさん、キッスさんを口説いたんですね」
     自然と籠った感嘆の響きは、高等吸血鬼の畏怖欲に届いたようだが、ノースディンはすぐに我に返って澄まして尋ねる。
    「キッス嬢、とは?」
    「うちの会社の部下でして」
     吉田が手でなんとなく体のシルエットを示すと、通じたノースディンは困惑していた。
    「部下…?」
    「ええ」
    今度はこころなしか、ノースディンが吉田を見る目に畏敬の色がやどっている。
    「『部下…?』ってなりますよね」
     わかるわかると三木が横で頷いている。
    「僕以前にキッスさんの魅了にかかりそうになったんですけど、抗いがたさがすごくて」
    「は? あのハムが吉田さんに魅了を?」
    「事故だったんですよ、三木さん落ち着いて。…あれで彼女は守備範囲狭いし、吸血鬼の抵抗力もあるのに、それを貫通する効果ってすごいなって…それを街全体ですよね。かからない程度でも威力を体験した身としては、ノースディンさん本当に強大な吸血鬼なんだと、改めてわかりました」
     着地点が大絶賛で、ノースディンは無言をたもったが、僅かに顎があがった。かなり畏怖欲の琴線に触れたらしい。
    「まあ魅了自体は基本能力だが私ほどの使い手は確かにそうはいないな」
     ブランデーグラスを手にして軽く揺らしながら、気取って応じるのへ、吉田が素直にいやーすごいなーと畳みかけるのを三木が途中で邪魔をする。
    「ノースディンさん、今度俺のバイト先に来てくださいよ。楽しくお話できますよ」
     畏怖畏怖クラブの店舗カードをテーブルに置いて差し出すと、誰が行くかと指で弾き返された。
    「でも真面目な話、そこらで魅了かけるくらいなら、店に来てくださいよ。あなた一応警戒対象のままなんじゃないですか」
    「そこらで魅了など……かけて…いや」
    「三木さんどこで見てるかわかったものじゃないからなあ。ごまかさないほうがいいですよ」
     あやふやな返答に、呑気な調子に見せながら、吉田が逃げ道をふさぐと
    「皆無とは言わないが、好意を持たれるのに必ずしも魅了はいらん」
    「うわー…」
    「それで口説いてるんだ…」
    「その場で相手に合った言葉を出しているだけだ」
    「口説イテマスカ?」

     今まで会話に加わっていなかった4人目の声が入って、残る3人はピタリと黙った。
     転寝していたクラージィがむっくりと起き上がる。
    「ノースディン、街ノ人、口説イテマスカ」
    「い、や…?」
     語尾を曖昧にしながらノースディンは否定する
     この会ではノースディンも周りと会話するようになったこともあって、ノースディンとクラージィも日本語で会話するようになっていたが、クラージィはまだタメ語に慣れてない。
     自分にむけられる口調の丁寧さに、この時のノースディンはたじろいだ。
     歯切れの悪いノースディンにわずかに首を傾げてから、クラージィは
    「街ノ人ト仲良シスル。イイコトデス。ウレシイデス」
    と、にっこりとする。
     ふっと聞こえたのは、三木だ。視線をそらしているのは笑っているに違いない。
     ソレデ…とクラージィは続けて、
    『事件とは何のことだ?』
     微笑んだまま言葉を切り替える。
     ノースディンが固まった。
     クラージィは微笑みを深くして、人間たちに向き直ると、 
    「ヨシダサン、キッスサンノオ話、聞キタイデス。チャームノオ話ト、ノースディン、クドイタ話」

     いったいいつから起きていたのだろう。
     三木と吉田は目配せしあう。
     「(これは…事件の事、話してないですね)」
     そして、冷ややかにノースディンを見る。
     「(話してないのかよ)」

     室温が少し下がった。
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