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    kitanomado

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    kitanomado

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    厄年の話とムショに三年間滞在してたことをさとみくんに言わないなりたの話。

    神様の名前「3年間なにしてはったんですか。連絡もなしで」
    テーブルに肘をつき、黄金色をしたシロップをホットケーキの上に垂らしながら、聡実くんは言った。
    その様はまるで、聡実くんの白く細っこい指先からきらきらと光る黄金の蜜が流れ出ているようで、とても神秘的だ。
    シロップがホットケーキの縁を伝い、たらりと皿に落ちて水たまりを作っていくその行方を見送ってから、聡実くんはちらり、と視線をこちらに寄越す。少し剣の含んだ言葉と同じに、向けられる視線にも恨み言が詰まっている様で、自然に口角が上がってしまう。
    空港で再会した時、聡実くんは突然の事に呆然としていたが、羽田に到着し、適当に入った喫茶店で差し向かいでホットケーキとサンドイッチなんかをつまんでいる今、本来の調子を取り戻したらしい。
    落ち着いた状態から発されるその質問は、三年間という短くはない期間、音沙汰一つもなかったら当たり前に出てくるものだろう。御尤もです仰る通りです、としか言い様がないが、さて、どうしたものか。
    ただ、その恨み言は裏を返せば、連絡が欲しかった。なんで連絡よこさんかったんや。とも受け取れるが、それ程までに俺の不在は君の三年間に大きな影響を与えたんだと自惚れても良いのだろうか。
    たった二ヶ月しか会わなかった、しかもその間、君の都合など一切考えず連れ回し振り回した素性のようわからん男のことなぞ、とっとと忘れて学生生活を謳歌しているとばかり思っていたのに、あの名刺だ。自惚れるなという方が難しい。同じ様な熱量で、会いたかったと思ってくれていたのだろうか。
    俺の「会いたかった」は決して嘘ではない。心の底から出た言葉だ。
    三年間、不自由だが衣食住事足りたあの空間で、他に欲しい物など何もなかったが、唯一喉から手が出るほど、ずっと夢にまで見たその人は、想像通り少し大人になっていて、身につけているものも変わってはいるけれど、やはり聡実くんそのものだ。三年ぶりに対峙する、眼鏡の奥の茶色の澄んだ目も、細長い手足も、きちんと分けられた前髪もすべてが輝いて見えて仕方がない。
    俺はコーヒーカップを掴むと、ず、と黒い液体を啜った。
    「俺なあ、ここ3年間厄年やってん」
    「厄年?」
    「そ。聞いたことあれへん?」
    「そういえば、兄ちゃん今年正月帰ってきた時、そんなん言うてた気がする。厄払い行かなって」
    「兄ちゃんて聡実くんより6つ上やったっけ。まあまあ年離れとるな」
    「なんで知ってるんですか…こわ…」
    「ほんでな、厄年っちゅうのは本人もやけど周りの人間に害が及んだりすんのやて。むしろまわりのが被害被る時もあるのよ。うちの組の奴でな、本人はピンピンしとるのに周りが病気やら怪我やらしまくっとってえらい迷惑やってん」
    「……もしかして、それが理由ですか?」
    疑わしそうにじと、と上目で見る顔は、成長していてもどこか昔の面影が残っている。この顔も久しぶりに見る。これから何度でもこの表情が見られるのだから、やっぱり娑婆に出た甲斐があるというものだ。むしろ、この為に出てきた、と言っても過言ではない。娑婆には、俺だけの眼鏡をかけた可愛らしい神様がいる。本当は手を合わせて拝みたいくらいだが、流石に引かれそうなのでやめておく。
    「聡実くんに害及ばすわけにはいかんもんなぁ」
    「狂児さん自体が害みたいなもんやけどな……」
    「なんて?」
    「なんでもないです」
    聡実くんは俺から視線を反らすと、バターとシロップの染み込んだホットケーキをナイフでざくざくと切り始めた。
    まあ、確かに君の言うことには一理も二理も三理もある。だけど、この災厄が付き纏うことだけはどうか諦めてくれないか。都合のいいことだとは分かっているが、君にとって俺は災厄かもしれないが、俺にとっての君は祝福そのものなのだから。
    一口大というには少し大きめに切り分けられたホットケーキを聡実くんは咀嚼し飲み込んだたあと、また口を開いた。
    「やけど、狂児さんそういうの信じるんや。信心深いんやな。意外」
    「まー組でも節目節目で色々やるからなあ。鰯の頭も信心てやつよ」
    三年ぶりに名前を呼ばれると、耳がくすぐったい気持ちになる。全てを狂わせた災厄の大元、かもしれない俺の名前も君に呼ばれたら光栄だろう。その時、脳みその奥で、ちり、と何かの記憶が蘇った。
    「ああ、名前にわざと悪い言葉いれるんやて」
    「何の話?」
    「いや、昔の人でな、子どもの名前にわざと縁起悪い字いれる風習?みたいのんがあったんやて。そしたら悪い神さんもそういう名前の子は好かんわ〜いうて避けて通るからて。一種の魔除けやな。ほんで俺の名前は、まあアクシデントでこうなった訳やけど、そんなええ意味やないやん?やけど、昔近所のじいさんに「自分縁起ええ名前やな〜」て言われて、その話聞いたん今思い出したわ」
    「それ、さっきの話とどうつながるんですか?」
    聡実くんはもう一口ホットケーキを頬張った。
    「やからな、あえて害を及ぼしそうなんのと一緒におったらもっとでかい害悪が向こうから避けるんちゃうか〜て話よ。毒には毒ちゅうやつよ」
    「強引すぎん?」
    「やから聡実くん俺とおったらお得よ〜」
    「まあ、やくざやからな。他が避けるんはわからんでもないけど」
    聡実くんは、フォークを持っていない方の手でスマートフォンを操作した。
    「僕、最初の厄年23なんや。5年後」
    そう言って、自分のスマートフォンの画面をこちらへと向けた。そこには聡実くんの生まれ年の厄年一覧が載っていた。
    「ほーん。まだもうちょい先やな」
    「ほな、こん時の3年間は狂児さんと会わん方がええな」
    「えっ!なんで?」
    「なんでて、いま狂児さんが自分で言うてたやないですか。厄年は周りに害を及ぼすんやろ?それやったら狂児さんに悪いことあったらあかんやん」
    そんな意趣返しをされるとは思ってもなかった。ついテーブルに身を乗り出す。
    「いやいやいやいや、俺は大丈夫よ。厄年とかそんなん関係あれへんから。ヤクザやで〜。むしろ聡実くんの厄貰うたげるわ」
    「めっちゃ早口やん。さっきと言うてること違うし。しかも厄貰うて」
    「聡実くんの厄貰うてパーン!て遠くにほかったるから、安心しなさい」
    「厄ってそんな物理攻撃でなんとかなるもんなんですか?」
    怪訝そうな顔で言う聡実を見て、俺は思わず笑ってしまう。
    「いうか、聡実くんそん時までおじさんと会うてくれるつもりなんやなあ」
    俺がそう言うと、聡実くんは、はっとした顔をした。それからしまった、という様に顔を顰めた。
    えー?そこ気づかんと喋っとったん?この子。そらあかんわ。もう無意識やもん。手遅れやで。災厄が隣におるのんが当たり前みたいになってしもたら、それまでよ聡実くん。観念してどうか受け入れてほしい。
    「別に、そういう訳や、」
    「嬉しわあ」
    被せるように言うと、聡実くんはう、と言葉に詰まった。
    災厄と望んで共にいようとしてくれるなんてやはりこの子は神様かもしれない。誰にとってもではないが、俺だけの唯一の神様。窓からの明るい日差しを受ける姿はやはり神々しく映る。その神々しさに欲情もしているなんていうのは罰当たりなのかもしれないが。
    聡実くんは諦めた様に、はあ、とため息をついた。
    「ほな、僕が厄年の時、狂児さん一緒に厄払い行ってくださいね」
    「行く行く。絶対一緒に行く。いつ行く〜?カレンダーに予定入れとくわ」
    「気早すぎやん」
    「5年後の楽しみあるてええやん」
    「僕の厄年をお楽しみイベントにせんといてください」
    「あ、聡実くんついでに今年のクリスマスイブ空いてる?空いてるよな?予約しときたいわ。クリスマス当日と両方でもええけど」
    「やから気ぃ早いねんて」
    「俺予定空けとくからよろしくネ」
    「話聞け」
    「スマホのカレンダーに入れといた〜」
    「うわ、スクショいらん。なにこの派手な色の予定。しかも勝手に泊まりにすんな」
    これから先、クリスマスも正月も誕生日も、なんなら三百六十五日の全て、覚悟して災厄と共に一生過ごしてもらおう。その代わり、君に降り注ぐつまらない災厄は全てなぎ払うと約束をしよう。
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