「…………何」
こちらを見上げる彼が言う。
その度に、手のひらを喉仏が撫でる。指先は動脈から鼓動を伝え、冷たい鋼と温かい柔肌から彼の体温が染み込んでくる。
「…………だから何」
少しだけ眉間を寄せる。
これは不自由なのに腹を立てているわけではない。ましてや首を掴んでいる不快感からではない。ワタシが何も言わないから不満を述べているだけなのだ。
「…………………続きしたいんだけど」
ビーカーを少し揺らし、ちゃぽんと音を立てて主張させる。左手も掴んでいるから、ほんの些細な動き。自由を奪っているのにそれでも振り解かない。
「……………………エンド」
名前を呼ぶ。
名前を呼んでくれる。
なんの警戒もなく、なんの不快感もなく、するがままさせるがままにしてくれる。
それがたまらなく……。
「おい──────」
口付けを落とせば、侵入させた舌を優しく噛まれる。何も言わないこと、研究を留めていることへの抗議のつもりだろう。
それでも歯列をなぞるように這わせれば、ぬるついた舌が迎えてくれる。
手のひらから伝わる熱が少し上がる。
手のひらから伝わる脈が少し上がる。
手のひらから伝わる喉仏が嚥下する。
無防備に曝け出される喉から、手を離す。
「…………………愛おしいなと思いまして」
糸を引く口を拭わずに離れれば、緩く開かれた彼の口端から溢れ出る涎が伝う。
意味がわからん、と訴える瞳は、息を止めさせて敏感な上顎を舐めたせいでうっすら涙を浮かべている。抗議のひと睨みが可愛らしさに代わることを、彼は自覚していないのだ。
掴んでいた左手も解放すれば、また研究の続きをする。
この瞬間が、堪らなく愛おしい。