ある人のために 深夜、カサ、と耳元で音が鳴った。
その時俺は傑の部屋の大きなベッドに彼とともにいて、ささやかな音に気づいたのは奇跡と言っても良かった。正しくはわずかに残穢を感じたからだったが、そこに悪意はなかった。
傑もすぐに起きた。冷えていた足元は絡まってあたたまり、俺たちはぬくもりを求め合って触れ合っていたのを思い出す。もう冬だった。そろそろ来年の進級が決まる頃だ。俺たちにも後輩が出来て、二年生になる。
「なぁ、傑これってさ」
「……うん」
残穢じゃないか?
俺たちは眠い目をこすって、密やかに言葉を交わした。あたりはまだ暗いが、目が慣れているせいでお互いの表情は見えた。傑はほどいた長い髪をまとめて、ヘアゴムでくくった。俺は一応サングラスを探してみたけれど、どこかに落としたのか見つからなかった。その代わりにベッドサイドの棚に右手で触れると、カサ、と音が鳴った。それはさっき聞いた音だった。かすかに残穢を感じる、そんな紙の音だった。
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