いばにゃんを可愛がる回「……本日は急ですがオフにさせていただきました。閣下におかれましては十分休養をとっていただきたく……」
「……うん、わかった」
茨が珍しく朝の共用キッチンで帽子をかぶっている。しばらくなにも聞かずに、いつも通りに座っていたけれど、気になってしまう。朝食を摂りながらコーンスープを丹念に冷ましている茨に、その理由を聞いてみた。
「茨、どうして帽子かぶっているの?」
びくっと、やけに狼狽して、茨は目を泳がせた。
「ね、寝癖がひどくて……」
「……見たいな、私」
「面白くもなんともないです、は、恥ですので見せられません」
「……それほど恥な寝癖はきっと見ないと損するから見せてね」
「や、やめ、閣下! ちょっ、うわ! 馬鹿力!」
抵抗する茨の両腕をまとめて、すぽんと帽子を取り上げた。
寝癖――ではなく。
ぴんと、上を向いた、猫耳がそこに生えていた。
「……茨、これは寝癖じゃなくて――」
「ひっ! 触っちゃ、あ、ちょっ……!」
「……すごい、本当に生えてるの?」
茨の頭の猫耳の付け根は、しっかりと茨の頭皮につながっていて――柔らかい猫耳を掴むと、それはぴくぴくと自在に動いた。
「閣下、やめ、うう、やめてください!」
「……ごめんね。これを隠したかったんだ?」
「そりゃ隠したいですよ! 正気じゃないですこんな猫耳頭に乗っけて仕事なんて! 朝起きたらこれですよ!? どういうこと!?」
「茨、尻尾も出てるよ」
「あぐう……」
茨の髪の毛の色と同じ猫尻尾が、尾骶骨の延長から生えているらしい。それがぴん! と、興奮して立っている。
「……ほんとに猫ちゃんだね」
かわいいので写真を撮って日和くんに送った。
「あ!? ちょっと閣下、記録しないでくださ……」
「うん。ジュンと日和くんがすぐ来るから動かないでね、って」
「あああ……ややこしいことに……」
ぺしょりと耳が垂れて、しっぽがしぱしぱと動いた。茨の感情が具現化していて面白い。
「ふふ……、そっか猫だから……、猫舌でコーンスープふーふーしてたんだね」
「……お恥ずかしながら……、どうも全体的に猫の性質が備わってしまったみたいで……」
「……じゃあ顎の下とか気持ちいいのかな」
「あごのした……?」
「やってみるね」
「え、あ、……!? ッ〜〜♡」
そろそろと子猫にやるみたいに顎の下を撫でると、ぴくぴくと耳を動かしながら、茨はとろけてしまった。
かわいい。
「閣下、あ、だめ、ですそれぇっ!」
「……耳と尻尾は嬉しそうだけど」
「あにゃ……っ♡ 心拍数が上昇するっ……♡」
「わ! ほんとに茨に猫耳が生えているね!?」
「朝から召集されて何かと思いましたけどなんすかそれ、てか茨がやばい」
日和くんにジュンがやってきて二人して茨を囲んだ。ジュンはわらいながら撮影している。
「ひっ、ちょ、殿下、ジュン、やめ」
「よ〜〜しよしよし、猫ちゃんになっちゃった茨は可愛げがあるね! お耳をパチンとしたくなる梶井基次郎の気持ちもわからなくもないね! ほ〜〜ら、しっぽの上をトン♡ トン♡ すると、いいんだよね♡」
日和くんが茨をもみくちゃにしながら尻尾を撫でて腰をトントンすると、茨は身を捩って恥ずかしいこえを漏らした。
「あ、殿下っ、ちょ、だめ、それ、だめぇ! あ♡ あ♡ あ♡ あう〜〜っ♡」
「動画とりますね、後々茨との取引材料にします」
「ジュンくんかしこいね! もっと茨を可愛がってあげてもいいね〜〜♡」
ぴくっぴくっと茨の猫耳は震えて、日和くんとジュンを捉えている。じたじたしているけれど茨は日和くんに逆らえないみたいだった。
「ひ、やめ、ほんと、ゆるして、ください、……いっそころして……うう……」
「あっはっは、もっと辱めてもいいね! でも共用スペースをいつまでも占領してたらよくないね、じゃあジュンくんのお部屋に行こうね! たしかこはくくんは不在なんだよね、だからお部屋まるまる使えるね〜〜」
「いいっすよぉ。弱ってる茨も珍しいんで、みんなで遊びましょう」
「うん、とてもいい提案だと思う」
「あ、遊ぶな!」
「よ〜〜しよしよし」
「ごろごろ」
日和くんに手名付けられながら、でろでろになってしまった茨を抱えてジュンの部屋に運び込む。
はじまったばかりの一日だから、きっとたっぷり遊べる。
「な、なにす……」
「たーくさん楽しいことしようね♡」
「こないだ遊び部で猫カフェ行ったんで、道具も実はあるんさよ」
「……猫可愛がりしてあげるね」
にっこりとわらいながら、ドアーを閉めた。
(220303)