凪茨「君はきっと知らないだろうね」
「……は?」
ぽそりと落とされた言葉があまりに唐突だったものだから、拾い損ねてしまった。文脈もクソもなく、抽象的な質問は何に対してだか検討もつかない。わからない、という意味では自分が『知らない』のは紛うことなき事実である。
ESビルから星奏館までの帰り道。明日のスケジュール確認を終えてジュンが殿下の機嫌を損ねただとか、サークル活動で工芸茶を飲んだだとか他愛ない話をしながら歩いていた。
話題が途切れ、初夏の爽やかな風が静かに通り抜けたときだった。
自分がわからない、または理解出来ない言動を閣下がなさるときはまず矢継ぎ早に質問し、会話を繋げ、閣下が仰りたいことを互いに言語で共有することが定石。
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