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    MDZSオンライン交流会4、曦澄プチオンリーのペーパーラリー参加小説です。
    テーマ:『婚姻の儀』
    江澄の後悔に寄り添う兄上。

    ##MDZS
    #曦澄

    星は瞬く「あなたから日付を指定してのお誘いとは珍しい」
    「……言うな」
     夜の帳が下りた頃合、蓮花塢の四阿にて姑蘇藍氏の宗主と雲夢江氏の宗主が各々茶杯と酒杯を手にして向かい合っていた。
    「嬉しいという話だよ」
     茶杯を掲げた藍㬢臣が微笑みながら、そう言った。少し顔を逸らしながらも江澄も酒杯を掲げ、一息に煽る。
    「いいお茶だ」
    「口にあったならよかった。雲夢の高山で今年採れたばかりのものだ。気に入ったのなら帰りに包もう」
    「それは嬉しい。ありがたくいただこうかな」
     四阿は湖から吹く風がよく通り、些か残る雲夢の暑さを涼やかに和らげてくれている。空には星も少しづつ煌めき出してきていた。
    「――何故今日だったのか、理由を聞いても?」
     藍㬢臣がゆったりとした口調でそう問うと、江澄は杯に継ぎ足した酒を再び一息に煽ったあと、ふうっと胸から息を深く吐き出した。
    「今日は……姉が婚姻の式を挙げた日だ」
     吐息と共に重く吐き出された言葉に、藍㬢臣は江澄から目を離さず、続きを促すように視線を動かした。空になった酒杯を手の内で弄びながら、江澄は続きをぽつりと切り出した。
    「姉の晴れ姿をあいつに見せに、夷陵まで行った」
     当時、師兄であった魏無羨は乱葬崗にて温氏の生き残りと居を構えており、公的には江氏からも破門された状態であった。
    「俺とあいつで、姉の婚礼は百年語り継がれ、誰もが絶賛する最高の式にすると、昔から話していたんだ。ずっと……ずっと。それなのに……」
     かつて姉の幸せを共に夢想して話していた相手は仙門百家から煙たがられるようになっており、とても式には参列させられるような状況ではなくなっていた。最高にするはずの式は、蘭陵金氏の金鱗台で執り行われたこともあり、それは盛大なものであった。しかし、家族が、たった三人の家族が揃うことは叶わなかった。
    「どうしても思い出してしまう」
     そしてその後、三人が揃うことができた瞬間は、不夜天での姉の最期、一度きりであった。十数年経った今でも思う。あの時、他に選択肢はなかったのか、もっと早く気づくことができたら、もし、もし……。
    「この日ばかりは」
     《もし》などないのに。
     分かって、いるのに。
    「だから……っ」
     両手で顔を覆い、俯いた江澄の背にふわりと腕が回り、そっと抱き寄せられた。きつく押し付けていた手があたたかい掌によってゆっくりと外され、そのまま目元を覆ってくれる。長い袖に包まれふんわりとした白檀の香りが鼻元をやわらかにくすぐった。
    「――……話してくれて、ありがとう」
     藍㬢臣がそう耳元でささやくと、掌の下で熱い涙がながれるのを感じた。このひとは長い間、たった独りで耐えてきていたのだろう。今回の件だけでなく、色々なことを。そういう人だと分かっていたはずなのに、まだこんなにも知らない、独りきりで抱えていることがある。だから。
    「またひとつ、あなたのことを知ることができてよかった。……呼んでくれて、ありがとう。阿澄」
     低く輝く星がちかりと美しく瞬いた。

                              終
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     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
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     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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     藍曦臣は眠っただろうか。
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     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
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     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
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    「とりあえず、水を」
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     体操が終わった後は一列に並んで、参加初日に配られた日付の書かれた紙に江宗主から参加した証拠となる印を押してもらうのだ。
     その印は江宗主が東瀛へと船を出している商人から献上されたもので、可愛らしい鳩の絵と「江晩吟」と宗主の姓と字が彫られたものだった。なんでも八月十日にのみ作ることが許されているという特別な物らしい。ただ、あまりにも鳩が可愛らしいものだから、江宗主の通常業務では利用することが憚られ、また子ども受けが非常に良いこともあり体操専用の印となっているとのことだった。
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