足跡さえ愛しく オズと小さいアーサー 窓の向こう。遠く昔日に思いを馳せれど、留める意思なき記憶の断片は雪原に葬られその形を無くした。再度手のひらの上へそれを掬い出そうとしても、雪に塗れたそれはその輪郭すら掴むことが困難となっていた。掌上に掬った雪は水となり端から伝って溢れていく。ただそこに残るのは濡れた手のひらだけだった。それまでの彼であれば、気にも留めなかった。手が濡れていることにすら彼は気付かなかっただろう。葬られたものはそのまま。積もるそれらに意識をやったりなどしない。彼の在り方の全てだった。それが今ではどうだろう。すっかりらしくない己の行動について。風雨の日の雨音のように、あの双子は騒ぎ立てるだろうか。同郷の、双子の元で共に過ごしたあいつは。
2004