腐れ縁的人間関係。「なんでこうなった」
「お互い様になぁ」
思わずお互いにそんな言葉を交わし合ってしまった。
そもそもの発端は仕事終わりに呼び出され、居酒屋のテーブル席で私の吐き出す紫煙の向こうに座りキラキラと効果が付きそうなさわやかな笑顔を浮かべる線の細い正当派イケメンによる。私の周りにいる二人の正当派イケメンはどちらとも性格に難ありなのはいかがなものか。目の前にいるイケメンは相手に対しての共感能力が低いサイコ野郎だし、もう一人のイケメンに至ってはヤリチン糞野郎だ。そして今日目の前にいる私を呼び出したイケメンサイコ野郎は席に着くやいなや、ビールを頼んだばかりの私ににこにこと笑いながら、「彼氏ができた」と言い放つのだ。このやり取りももう10年近く続けていれば、「で?」と言い放つ程度に驚きはしないのだけれど、冷たく突き放してもこの男は笑顔を崩さずそのまま話続けるわけで。
「落とすのに半年掛かっちゃったよ。いやぁ、俺頑張ったな」
「落とすじゃなくて、諦められたの間違いだろ」
率直な感想を漏らせば「リツ相変わらず酷いね」と笑顔にヒビすら入れずに返される。やっと届いた最初のカムアウトを受けた頃には飲めなかったビールを一気に呷り、空にすれば、間髪入れずに電気ブランを頼む。今日は目の前の男の奢りだし、そもそも私の酒量を知ってるこいつは飲み放題でオーダーしている。彼もまた最初の一杯目に届いたビールをちびちびと飲みつつ話を進める。
「これぞ働く男! ってかんじのがっしりした人なんだよ、彼。ホントたまんねーっていうか」
「あーお前ほっそいもんな。無い物ねだり無い物ねだり」
早速届いた電気ブランをちびりと飲みつつそう笑ってやれば「筋肉は、ありまぁす!」とふざけて気味に返される。
「知っとるわ」
線の細い外見とは裏腹に武道有段者、体育会系理系男子の名を欲しいままにするこいつの怪力ぶりはイヤと言うほど見てきた。
「あー、私の後ろを追っかけてきてた可愛い美少年はどこへ消えたのか」
「ここに、いまぁす!」
「黙れバリタチサイコ野郎」
そう返せば「リツが倒れても看てやんねーぞ」と言われ、思わず「絶ッッ対お前の勤めてる病院には行かないから安心しろ」と思考よりも口が先に動く。
そう、目の前の正当派イケメンは私の幼馴染みであり、現在研修医の身であるハイスペックバリタチガチゲイサイコ野郎である。名前を私は内情を知っているからこそこいつには診察されたくない。常々もう一方の正当派イケメンであるヤリチン糞野郎ウサギと対決させたいけれど、そもそもウサギはこいつの趣味じゃないだろうとも思っている。彼氏が出来ると何故か大抵私に面通しするこの男の男の趣味には不本意ながら詳しい。
「で、リツの休みはどこに存在する?」
本題だとでも言うように、いきなり切り出す彼に「まずは相手の意志を尊重しろ。相手の意志を」と今まで何度も言い続けた台詞を今日もまた口にする。大抵私に彼氏の面通しを行うこの男、相手の意見など聞かずにデート最中に私を呼びだして驚きの対面をさせたりするのだ。最初の彼氏に会った時など、相手の男に固まられたし、酷いときはその場で別れを切り出されていた。そらそうだ。だから私は何度でも言う。「そんなに私に会わせたいのなら、相手の了承を得て日程を合わせる努力を忘れるな」と。
「え? 面倒臭くね?」
「その! 面倒を! 怠るなつってんだよ!!」
思わず残りの電気ブランを一気に喉に流し込み、目の前の煙草に手が伸びる。新しい注文も忘れず追加して。
「シズお前さ、半年かけてアタックしまくって落と……根負けさせた相手なんだからもうちょっと相手のこと考えたらどうよ。シズが一方的に一途なのは私は知ってるけど、相手はいきなり知らない女に引き合わされたらドン引きだろ」
「リツ、二言三言多いのは無意識? 意図的?」
「意図的だこのハイスペック馬鹿野郎」
きょとんとするシズにそう返せば「何か歳を重ねる毎に俺の扱い酷くなってね?」と指摘される。
そんな指摘に私は思わず呟いてしまう「なんでこうなった」と。
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笹野の幼馴染の志純くん参戦。
(2016-02-13)