Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    はるち

    好きなものを好きなように

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐉 🍵 🎩 📚
    POIPOI 166

    はるち

    ☆quiet follow

    長袍を着て水煙草を吸っている先生が見たい

    #鯉博
    leiBo

    龍門誘蛾なんだか阿片窟に迷い込んだみたいだ。率直な感想を述べれば、咥えていた煙管を外した彼が、口元に苦さを浮かべる。
    「それ、おれ以外の前では言わない方が良いですよ」
    炎国と阿片の関係は複雑だ。歴史の暗部であり傷である。迂闊に部外者が踏み込んでいい領域ではない。
    勿論、わかっている。わかった上で言っている。
    それでも殊勝ぶって頷くと、彼は緩やかに私を手招いた。
    見慣れた探偵事務所の一角には、見慣れない硝子瓶が置かれていた。硝子瓶の上には銀の皿があり、煙草の葉が熾火で熱されている。硝子瓶から伸びる管は、彼の手にする煙管へと繋がっている。水煙草――と言うのだという。彼が愛飲している煙草とは異なる、退廃を甘く色付ける香りがした。
    「薄荷と巧克力の香りですよ。あなた、甘い方が好きでしょう」
    そう言われると子ども扱いされているようだった。けれど長椅子の上に寝そべって、夜霧のように倦怠と紫煙を纒う彼は、この堕落を統べる王だった。私如きの視線には揺るがない。
    吸ってみますかと煙管を手渡される。
    「深く息を吸ってください。そう――上手ですね」
    硝子瓶の中で、ぼこぼこと水が泡立つ。それは溺れゆくものの断末魔のようで、けれども冷ややかな水に抱き止められ、沈みゆく幸福は、陽に灼かれながら地を這う苦痛に勝るのだろうか。
    確かに煙は薄荷と巧克力の味がした。いつぞやに、晴天の龍門で彼と並んで食べた氷菓と同じ味。なのに何故、こんなにも異なるのか。この、二人きりの夜の中では。ここには喧騒も陽光も届かない。夜の帷と月光が、この酩酊を支配する。
    煙を彼に吐きかけると、双月を映す水面に波紋が広がるように、相貌が歪んだ。
    「あなたねえ」
    幾度も瞬きを繰り返すのは、煙が目にしみるからだろうか。わかってやっているんですか――という言葉は、吐き出した紫煙と混ざって溶けていく。煙を誰かに吹きかける意味。同じ香りを纏う意味。
    勿論、わかっている。わかった上でやっている。
    だから。
    「嗚呼、――わからないな。だから教えてくれないか」
    彼は腕を広げ、私を招く。長椅子に横たわったままの彼に跨っても、もうその双眸は揺るがなかった。髪をすく指先が甘い。煙管を床に転がしても、彼は何も咎めなかった。煙草飲みの舌は苦い――という。その言葉の通りに、彼の舌はいつも苦かった。けれど、同じ退廃を吸い、堕落を吐き出した後であれば。絡む舌先は、砂糖のように甘く、憂鬱のように苦く――阿片のように毒がある。
    もう、これ無しでは、生きていけなくなる程に。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🍼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754