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    大鶯♀の初デートの話

    ##大鶯♀

    鶯の初デートある本丸のそれはそれはうつくしい鶯は朝からそわそわしています。
    だって今日はあの人との初デート!
    服装も髪型も、メイクだってばっちり!ーーー本当に?
    もう何度目になるか、鏡の前でくるりくるり
    スカートが、髪が、女王様の後を追いかけます。
    今日のデートはどうなるのでしょう。


    ある晴れた日の午後、萬屋街のとあるモニュメントの前で、
    鶯丸はふわりとした笑みを浮かべて近くの時計塔を眺めていた。
    カチコチと針が進むたびにその笑みは一層深まっていきます。

    白いリブニットのノースリーブと紺のタイトロングスカート。
    落ち着いた紅梅色のショルダーバックを肩にかけ、
    ヒールが透明な白のパンプスは乱がシンデレラみたいじゃない?と一押しのもの。
    どれも、この日のために選んだおろしたてである。

    そして、待ち合わせの10分前。
    心待ちにしていた相手から声がかかった。

    「ずいぶん早いな、待たせてしまったか?」
    「大包平!」

    もちろんだ。今か今かと30分も前からずっと待っていたのだ。
    あともう少し大包平が遅れていたら、周りで鶯丸をうかがっていた男たちが
    声をかけていたかもしれない。
    それでも、鶯丸にとってこの程度待ったうちには入りもしなかった。

    「全然、さっき来たところだ!」

    弾けるような笑顔で言われては、それ以上追及するわけにはいかない。
    大包平はもともと決めていたカフェへ移動しようと促した。

    カフェにつくと天気が良いとテラス席に通された二人は
    適当に、とコーヒーを注文した。
    店員が下がった途端、鶯丸は大包平を質問攻めにした。

    「大包平は、コーヒーは好きか?砂糖は?」
    「ケーキは食べないか?甘いものは苦手だろうか?」
    「休みの日はこういうところによく来るのか?」
    「明日は仕事だったな、どっぐとれーなーとはどんな・・」

    少々面食らったが、大包平はひとつひとつ端的に答えていった。
    興味津々の鶯丸の顔からは、輝く何かがこぼれるようで、とても
    無下にはできない。

    楽しい時間はあっという間に終わるもの。
    頼んだコーヒーは最後の一口。
    席に着いてからずいぶん経った。

    「そろそろ出るか。少しぶらついたらいい時間だろう。」
    「そう、か。もうそんな時間か。」

    物足りないと、ありありと顔に出ているが鶯丸も大包平にならない
    席を後にした。

    カフェを出て万屋街を道なりに進んだ。
    この先にはあとは河原があるだけで、店はもうぽつぽつと途切れていた。

    「ここで、戻るか。」

    そう、踵を返した時である。
    背後に強烈な気配を感じた。空間を歪ませ、にじり出てきた
    まがまがしい気配ーー時間遡行軍

    突如として現れた時空のひずみに万屋街はパニックに陥る中、
    誰よりも早く反応したのは鶯丸だった。

    手のひらに刀紋が光った次の瞬間、その手には自身の刀が握られていた。
    襲撃犯のもとへと一足飛びに駆けようと腰を落とし、踏み込んだ瞬間

    パキ、と軽い音が足元から響いた。

    ヒールが折れた音だった。
    完全に迎撃のためにめ巡らせていた思考が寸の間止まった

    (そうだ、今は大包平との逢瀬で)

    王子様に見初められ、求められ結ばれた童話のお姫様を
    思わせると、乱に勧められたもの。

    だが、それは鶯丸が退く理由にはなりえない。
    何故なら俺は刀剣男士鶯丸であり、目の前には敵がいるのだ。

    一瞬、足元に落とした視線をすぐさまあげ、時間遡行軍を見据えた。
    そのまま視線を逸らすことなく、刀で大きくスカートを裂き、パンプスを脱ぎ捨てた。

    もう鶯の飛翔を妨げるものはない。

    とん、と地を蹴り体をひねる。
    大太刀の背後から肩に舞い降り
    一閃。

    どっどどと首が地に落ちる頃には打ち刀の胴を
    続けざまに短刀2体を正面から、
    一閃、一閃一閃ーーーー

    歪んだ時空から湧いて出た敵を一掃し、高らかに声をはる
    「審神者同伴は、政府東棟へ避難しろ!短刀、脇差は周囲を索敵、
     打ち刀は避難誘導、太刀以上は避難ルートの護衛と残党狩りだ」

    轟いた号令にその場にいた刀剣男士が即座に動き出す。
    誰かが政府に連絡したのだろう。武装した刀剣男士と職員が
    やってきて誘導を始めている。
    敵影は見当たらない。鶯丸はその刀を収めた。

    「鶯丸」

    ああーーーーーー、そうだった。
    今日は初めての逢瀬だったのに。
    ゆっくりと振り向いた先には、鮮やかな赤。

    「大包平、、」
    (どうしよう。スカートは派手に割いてしまった)

    「これは、」
    (返り血も、ひどいだろうな)

    俺は、今どんな顔だ?

    「見事な太刀筋だった。」

    そういって大包平は来ていたジャケットを鶯丸の腰に巻いた。
    屈んで脱ぎ捨てたパンプスを差し出した。

    「指示も的確、さすがは現役部隊長だな。」

    取り出したハンカチでそっと返り血を拭う。

    「そう、か。でも、すまない。こんな、見れたものではないだろう。」

    せっかくの逢瀬だったのに、相手の女がこれではな。
    かのお姫様のパンプスももう履くことは出来ないだろう。
    いや、そもそもお姫様は履物がこんなになるようなことはしないのだ。
    真似をしても、俺がなれるわけはなかったのに。

    パンプスを受け取って、でもそれ以上あげられない視線のまま
    黙り込んだ。

    「ーー失礼する」

    そう、頭から言葉が降ってきたと思ったら、鶯丸の足はふわ、と
    宙に浮いた。
    これは、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

    「お、大包平?」

    「お前の働きは刀剣男士として誉あるものだった!」
    「だが、同時にお前は美しく年頃の女であるお前をこの姿のまま歩いて帰すわけにはいかん。」
    「しばし我慢しろ。」

    「いや、ありがとう・・」

    大包平は近くの政府職員に簡潔に状況を報告し、帰宅許可を得た。
    その足で向かうのは萬屋街に隣接する政府施設の転移ゲートである。
    おそらく、この混乱で万屋街の転移ゲートは混雑しているだろう。
    その中に、この状態の鶯丸を連れて行くわけにはいかないとの判断だった。

    喫茶店とは打って変わって、黙り込む鶯丸の表情は沈み、
    大包平は見るに堪えなかった。

    「その、靴。残念だったな。もしーー」
    「うん、張り切ったのだが、やはり俺には戦闘装束の頑丈な靴がお似合いだったな。
     靴には悪いことをした。初めての場で壊してしまうなんて。」

    「ーもし!よければ、俺に新しい靴を贈らせてくれないか!」

    「え?」

    「お前には、そういった洒落た靴もよく似合っていた。」

    「ー大包平?」

    「こんなことになってしまったのは、まぁ俺のせいでもお前のせいでもないが」
    「それでお前がそういう靴を履く機会が無くなってしまうのは惜しいだろう!」
    「お前さえよければ、また着飾った姿で俺と出かけてほしい。どうだろうか?」

    「いいのか?俺となんかで」
    「俺は、また、何かの拍子で壊してしまうかもしれない。」

    「ふん!今回のこれは仕方のないことだった。靴も腰巻も納得してくれるだろう。」
    「必要なら、いくらでも俺が贈ってやるし、衣服なら繕ってやることもできる。」

    「お前は、お前の思うように着飾ればいい」
    「胸を張れ!鶯丸、戦場のお前も着飾ったお前も等しく美しい!」

    「そう、かな。そうか・・」
    「また大包平と出かけられるのか、俺は。」

    「うれしい」

    その後、大包平から靴が贈られた。
    鶯丸は毎日のように戦場を自在に駆け、敵を踏み倒し本陣へと向かっていく。
    そして、大包平と会うその時だけ
    地を駆けるための靴を脱いで、脆く儚い美しい靴を履くのだ。
    待ち人を待つためだけの、隣を歩くためだけのお姫様の靴を。





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