派手なネイルを見せびらかすかのように、一回り大きな手がスマホの画面を覆う。
「邪魔」
「さっきから何見てんの」
「カエルが喧嘩する動画」
「それよりさあ、」
ソファの背もたれを、ジャングルジムで遊ぶ小学生みたいに乗り越えて、兄さんは俺のすぐ隣にどっかりと腰を下ろした。愛くるしい両生類たちを「それよりさあ」とはどういう了見だ。
「……黒小僧って覚えてる?」
兄さんの問いかけに、俺は少し間を置いてから、小さく頷いた。
黒小僧──黒い着物の少年とか、黒づくめの男の子とか、その辺は色々な呼び名があったけど。俺たちが通ってた小学校で、一時期流行った怪談だ。雨の中一人で歩いてると現れて、「どうして僕を置いてったの」「一人にしないで」と泣き叫びながら襲いかかってくる、という、まあ誰でも考えつくようなチャチな話だった。
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