よくある話仕事から帰ってきて、カバンをソファーの上へと放り投げる。
疲れて何もしたくないと思いつつ、癖でPCの電源を入れた。
椅子に腰掛けて目をとじる。
目の奥にたまった疲れが眠気にかわり、
気を抜くとすぐにでも眠ってしまいそうだった。
ふぅ、と息をついてからぐっと身体を伸ばす。
身体のあちこちにたまった疲れがジンジンとしはじめて、休息を求めていた。
PCがいつもの起動音をならし、たちあがる。
その音につられて、視線が画面へとながれていく。
画面にはランダムに表示されるどこかの景色が映し出されている。
それは景色のほかにも花だったり動物だったりして、
いつも何が表示されるのか少し楽しみになっていた。
今日は海の写真だった。
いつもだったら、青い空に青い海、と海と言っても穏やかな写真が映し出されることが多いのだか、今映し出されている海は荒々しく、ゴツゴツとした崖に波を打ちつけてしぶきをあげていた。
空も曇っていてあまりキレイな写真といえるものではなかった。
その写真は崖の上から海側を向いて撮られたもので、素人が観光に来て撮った写真、という印象が強かった。
(サスペンスのシーンとかに出てきそうな場所だなあ)
と、ぼーっとした頭でそう思った。
眠気がどんどん強くなってきて、少し視界がぼやけてくる。
さっさとお風呂にでも入って寝てしまおう、と椅子に沈みかけていた身体を起こし立ち上がろうとする。
ん?
何か違和感を感じる。
何だろう。
立ち上がろうとしている体制のまま耳をすましてみるが、
変わった物音がするわけではない。
それでも、まだ妙な緊張感とともに違和感をぬぐえないでいる。
静かに目線だけで辺りを見回す。
部屋の様子も、ソファーの上に投げたカバンにも変わった様子はみられなかった。
ふと、目線がPCの画面へと向けられる。
?
眠気なまこの状態で見ていたから正確に覚えているわけではないのだが、
あきらかに先ほどと違うものが画面に映っていた。
景色は先ほど見た崖と海の景色を同じなのだが、
そこに誰か人が1人映っているのだった。
(人なんか映ってたっけ)
と、思わず画面に顔を近づける。
そこに映っている人は後姿で、海のほうを向いて立っている。
その姿にはどこか、見覚えがあった気がした。
(さっきは気がつかなかっただけかな)
と、PCの前を離れ、お風呂へ向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・。
お風呂から戻ると、PCの画面がまだついていた。
(いつもは時間がたつとスリープモードに入るんだけどなぁ?
変な感じがするし、さっさと消して今日はもう寝てしまおう)
と、PCへと伸ばす手が止まる。
変だ。
さっきと違う。
先ほどと同じ崖と海の風景。
そして、後ろを向いて立っている人。
しかし、先ほど見た画像とは明らかに違う点があった。
頭で理解するよりも早く、鳥肌がたつ。
脳の表面を何かが這うような感覚に陥る。
何かが、いる。
崖に打ち付ける波は荒々しく、その海を眺めている人。
そして、その人の後ろに立つ、黒い何か。
気味が悪くてすぐにでも電源を落としたかった。
だけど、身体が動かない。
その画面から、めが離せなくなっていた。
これ
動いてる
風景はまったく動いてはいない。
ただ、黒い何かだけがゆらゆらと動いている。
そこではっと気がついた。
なぜ、そこに立っている人に見覚えがあるように感じたのか。
それはその人が――――――――――――――――――。
黒いもやは次第に、その人の背中をぐっと強く押した。
まるで古い監視カメラの映像のように、コマ送りで
人が
崖の先へと、それはマネキンのように
なんの抵抗もなく消えていった。
やがて画面には
荒々しい波と、崖と、黒い何かだけが残った。
唖然としていると、黒い影は徐々にこちらに向かって移動していることに気がつく。
コマ送りで、ゆらりゆらりと、どんどんその何かは大きく映る。
それでもそれが一体何なのか、わからなかった。
画面の全てを黒く覆い、それからブツリとPCの電源が落ちる音が
静かな部屋の中に響いた。