周りに誰もいないことを確認してから、植え込みの角を曲がる。それから噴水や寮を横切って、さらに進む。もう少し。
大きな木の下が私の目的地。そこには予想通り、先客がいた。
「今日もいるんだ」
声をかけたつもりはなかったけれど、私の存在に気がついたのかゆっくりと尻尾が揺れた。薄い茶色の毛並みは穏やかな日に照らされて、きっと触れれば心地いいのだろう。
木陰に腰を下ろす。日差しが心地よいのか、動く気配はない。ただ、尻尾がゆるゆると動いているだけ。
私も何をするわけでもなく、それを視界に捉える。風の音しか聞こえない。日常を送るガーデンにいることを忘れてしまいそう。
いつだったか、梅様と鶴紗さんに連れて来られたのがここだった。よく猫がいる場所があると言われて、手を引かれて連れて来られた場所。確かにいつ行っても一匹は猫がいて、私が道順を思い出さずとも行けるようになるまでそれほど時間はかからなかった。
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