こんな普通やったっけ 会ってない時の僕の中の狂児は実物より憎たらしい気がする。僕のやることなすことニヤニヤして観察しているし口も手も足も出す。いつも僕は僕の中の狂児に鼻を明かすような反論を考えて、怒っている。バイト先のファミレスで一人夜勤をしている間じゅうあいつがああ言ったらこう言うとシミュレーションをしていたら止まらなくなって、帰りの夜道で何故か泣けて来てしまった。あいつはほんとに憎たらしい男で僕はずっと被害を被っているのだ。
でもそうじゃないらしい。
蛍光黄緑色に光るイルカやクマノミが狂児の色男ふうにセットされた頭越しに踊っている。薄暗いカラオケボックスの四人部屋で僕は狂児の穏やかなカーブを描く眉頭を見つめていた。
「こういう壁になんか光る絵描いてる部屋ってチカチカせえへん?あと白い服めっちゃ光って見えるよな」
「見えます」
狂児がおや、というように片眉を持ち上げた。今日の聡実くんは素直やなあとでも思ってるんだろうか。でもあくまで単純な好意のにじみ出る仕草で、この人を詰って過ごしている普段の自分が酷い悪人に思えた。
「狂児さん光ってますね」
なんでもいいから褒めておくことでこの借りをチャラにしたい気分だ。
「うん白シャツ失敗したわ恥ずいな〜」
「言うほど失敗ですか」
「実はあんまり思てへんかな」
「狂児さんそのシャツ似合いますね」
「今日聡実くんなんか変やない?」