良守は、駅前の本屋の前で思わず足を止めた。
後ろを歩いていた人がよけきれずに強くぶつかりながら過ぎ去っていったが、そんなことが気にならないくらい目の前のものに釘付けになっていた。
(聞いてない・・・)
そこには、窓ガラスいっぱいに正守の裸体の写真があり、こちらを色っぽく見つめている。
先日も似たようなことがあった。裸の写真が表紙を飾り、その眼差しはそのあまりの色気にワイドショーでも特集され、各メディアを賑わせた。その時はちゃんと話をして、もうこういうのはやらないからと約束したはずなのに。
そのまま吸い込まれるように本屋の入り口を通り抜けると、正面にはまたも特設コーナーができており、大きなポスターとともに表紙を向けて雑誌が並べられ、さらには平積みで雑誌がたくさん積まれている。その周りには女性だけでなく若い男性も興味深げに雑誌を眺めており、そして次から次へと手に取られていく。
群がる女性たちは正守を見ながらきゃっきゃっと騒いでいる。
「何冊買う?」
「え~観賞用と保存用と布教用?あと予備用かなぁ」
(4冊も!?)
良守はその会話を聞きながらびっくりするとともに、このことを黙っていた正守に腹が立ってきた。なんでいっつも黙ってるんだよ。
スマホを取り出すと、とりあえず休憩スペースに移動して電話をかけてみるものの電源が入ってないためにつながらない。今日はたしかに撮影だからとは言っていたが、一言文句をいってやらなければ気が済まない。
「このクソ兄貴!!」
そう留守電に残すと少しだけすっきりとしたが、周りにいた人たちの視線が気になりそそくさとその場を離れた。
とはいえ、やはり売っている雑誌の内容は気になる。棚に群がる女性たちの隙間からなんとか1冊を取るとレジに向かった。
家に帰ると、とりあえず冷蔵庫にあったジュースをコップに注いで、買ってきた雑誌と一緒にもってソファに座る。一口喉を潤してから雑誌を手に取った。
まじまじと表紙を眺めてみると、以前はS〇X特集だったせいかエロティックな雰囲気で女性と写っていたので妙な気恥ずかしさがあったのだが、今回は体づくりの特集なので正守単体の写真だ。とはいえ、上半身の筋骨隆々とした裸体を惜しげもなく晒している。いつ撮影だったのだろうか。いつになく体が仕上がってるようにも見える。誰もが惚れ惚れとする肉体美だ。
自分だけがいつでも見れると思っていたこの引き締まったカッコいい体が日本全国民、しいては全世界の人が見ているのである。俳優なんだから当たり前の話ではあるのだが、恋人としては複雑である。
「みんなが目をキラキラさせてるのがむかつくんだよ、俺の正守なのに」
嫉妬なのはわかっているし、みんなに自分のものだと言いたいのに言えないというストレスなのもわかっている。
それでも、やはりプロに撮ってもらっているだけあって、どの写真もいい。写真であるはずなのに、自分のことを射抜いているような視線がたまらなくゾクソクするのである。
「あの女の人たちが保存用って言ってたのなんだか分かる気がする」
ソファにずるずるともたれかかりながらジュースを飲みつつページをめくる。同じようなものを食べて生活してるはずなのに、この体つきの違いはなんなんだろうか。シャツをペロッとめくって自分の腹筋を見る。引き締まってはいるものの正守には到底及ばない。今度教えて貰いながら筋トレでもするかという気になりつつも、体格からして似つかない良守はきっと無理なんだろうなと半ば諦めの境地である。その後もしばらく雑誌を見つつジュースを飲んでソファでくつろいでいたものの、いつの間にか睡魔に襲われそのまま寝てしまった。なので、テーブルの上に置いておいたスマホが何度も鳴っていたことには気づかなかった。
ガチャガチャ
鍵を開けてドアを開ける音で目が覚めた。まだ部屋は暗くはなっていなかったので、そんなに長くは寝ていなかったようだ。玄関から通じる扉を見ていると、正守がビックリした様子でリビングに入ってきた。
「お前、帰ってたのか?携帯何度も鳴らしても出ないし心配したんだぞ?」
「うーん寝ちゃってみたい・・・」
目をこすりながらぼーっと正守を見上げる。
「それになんだ、あの留守電は!」
「?」
帰ってきて早々、訳も分からず怒られたことで、何かがブチっと切れてしまった。なんで俺が悪いんだよ。
「なんら?それはこっちのセリフら。俺は聞いてにゃいからな」
普通にしゃべっているはずなのになんだかおかしい。正守もそれに気づいた。
「どうした?」
「なんれもない!っていうかコレなんなんら!」
手元にあった雑誌を正守の目の前に突き出す。
「これ?雑誌だけど?っていうか良守酒臭くない?」
良守に顔を近づけてクンクンする。
「にゃに?おれはじゅーすしか飲んれない!っていうか、おれの正守なのにこんなんしやがって!こんなんやらないってこないら言ったからな」
正守は、変に絡んでくる良守をひょいと肩に担ぎ上げると、テーブルにあったコップの匂いをかぐ。
「良守、これワイン・・・」
「へっ?おれはぶどうじゅーすしか飲んれない。おろせってば!」
足をバタつかせるものの、ここでも体格の差で簡単には逃げられない。
「もしかして冷蔵庫に入れといたやつ飲んだ?赤ワインなんて普段入れとかないからジュースだと思ったのか。それで酔っぱらって、嫉妬丸出しで俺に絡んできたわけね」
正守はニヤッと口角を上げる。
「しっとなんてしてないもんねぇ。まさもりの裸を見ていいのはおれだけなんらから、もう」
そういうと、良守は正守の首にぎゅっとしがみつく。
コップの汚れからするに、少なくとも1杯分はワインを飲み干している。
普段、すぐに酔っぱらうはずなのに、ジュースだと思い込んでかなりの量を飲んでいるに違いない。それでも、こんなかわいく嫉妬されれば正守も悪い気はしない。
「そうだよな、良守のものだよな。悪かったな。じゃあ、今からじっくりと見せてやるから」
そういうと抱きかかえたまま寝室に向かった。
「はなせ~おろせ~おれはおこってるんだぞぉ」
向かう途中も、正守の背中をポカポカたたきながら暴れはするものの、怒り方がかわいい。
寝室の扉をあけて良守をベッドに下すと、正守は良守の上に乗り、着ていたTシャツをバサッとぬいで放り投げる。
「ほら、好きなだけ見ろ。お前のなんだろ?」
良守の手を取って自分の肌を触らせる。
「すげぇ、これおれの・・・」
ペタペタ触り方が幼いが、その動きだけでも正守は煽られる。好きに触らせると同時に、良守の服の中にも手をいれ素肌をさぐる。
「やらぁ、くすぐったい」
体を捻りながら逃げようとするが、体をよじることで上に乗っている正守の下半身を刺激してることに気づかない。
「ほら、見たかったんだろ?もっとよく見ろ」
動く良守を押さえつけてわざと見せつける。ふにゃふにゃしていた良守だが、急に腕で顔を隠してしまった。
「もういい!やめろって、見せんな!」
「お前が見たがったんだろ?」
「ちげぇし。もうほかの人に見せんなって言ってるの!」
こともあろうに今度はメソメソとし始めた。酔っ払いめんどくせぇと思いつつ、ここまで独占欲丸出しにしてくれる良守も珍しい。それだけで、嬉しさのあまり正守自身は天にも登る気持ちで勃ち上がっていた。
「悪かった。仕事なのは理解してくれよ?」
抱きしめて頬にチュッとすると、腕を外して顔を見せてくれた。
「わかってるんだけどぉ、でもおれのまさもりなの!」
そういうと今度は良守から唇にぶつかるようにキスをしてきた。
「うんうん、わかってる。良守のだよな。お前がいつもこんな可愛かったらいいのにな。良守も俺のだよな。じゃあそれを忘れれないためにも今日はずっとHしような」
そして、いつも以上にかわいくなっている良守を、いつも以上に可愛がる正守であった。
※このあと酔っぱらって素直&かわいくなった良に歯止めがかからなくなった正の激アマえちを書きたかったんですが、私には限界なのでみなさんの脳内でどうかドロドロにしてください。