たった三文字が言えなくて烏哭は目を覚めた。眼鏡なしでは目を開こうが閉じろうが似たようなレベルの視力であるが、いったん開いてみると薄い影ぐらいは分かる。ぼんやりとした窓越しに月明かりが漏れていた。真夜中だ。暗い闇を見ると明け方かも知れない。家を離れてから深く眠ったことがなかった彼には、見慣れた光景だ。
「……?」
光景だった、はずだ。しかし目を覚ましたのが不眠症だけではないと言うような妙な違和感に烏哭は体を起こした。そうして、すぐ倒れてしまった。あ、そうだった。烏哭はその時になってようやく自分の体を包んでいた違和感がズキズキする痛みであることに気づいた。光明に襲われ、むちゃくちゃにボコられた。それがほんの数時間前のことだ。まるで世間知らずの子供を見るような目つきで無慈悲に殴りかかった男の姿がいまだに鮮明だった。幸か不幸か、周りには何の人気もない。真横に広がっている布団は、めちゃくちゃのままだ。しわだらけの布団のように崩れた自分の姿がおかしくて、プフフと笑いを流していると、ますます変な気分になる。体に力は一つもないのに、不思議なほど楽しい。何、これ。
1740