ただ一つだけの真実(君がそこにいること) たった一人の誰かを愛しているってこと、それが俺にとってのただ一つだけの真実だ。ずっと孤独だった、と言っては彼を侮辱することになるが、俺は一人で孤独だと感じていた。確かに本が俺の孤独を救ってくれた。多くの知識を与えてくれ、多くの人々の生き死にを教えてくれ、歴史とはいかなるものかを教えてくれた。だが、俺はやはり一人だったのだ。彼に出会うまでは。彼は嫌がるかもしれないが、彼が、ギノが大勢に囲まれて殴られて、それでも立ち向かってゆく美しさを見た時、本で読んだ美しい人々の生き死にを、ようやく現実でも見たと、そう思ったのだった。
ギノにはこんなことは言ってない。ただ愛していると言っている。でも俺はギノのためなら強盗だって出来るし(金を稼ぐ方が簡単だからしないが)、知らない誰かの別荘を渡り歩いて寝泊まりをするカップルみたいな生き方もできる(これも別荘を買う方が簡単だからしないが)。ギノは俺にとっての神様みたいなものだった。本の中にしかいなかった、みんなに信仰されていたのに捨てられた神様みたいだった。ギノはとても美しくて、だからやっぱり神様なんだ。嫌がるから絶対に言わないけれど、俺はそれくらい参ってしまっているのだ。
「お前に借りた本、よく分からなかったよ」
ランチの時間にカフェテリアで、ギノはサンドイッチを口に入れながら言った。右手にはオレンジジュース、それからポテトサラダ。
「あぁ、あれは最後まで読まなきゃ分からないんだ。チャレンジしてみるか? それともドロップアウトしてみる?」
俺はカレーうどんを食べながら言った。ギノは今日もカレーうどんかと顔をしかめたが、彼も今日もサンドイッチだ。
俺たちはとても満たされている。ちぐはぐだった俺たちが、今はぴったりと合わさっている。たまに俺たちを見て顔を歪める人もいるが、ギノを潜在犯の息子と知らない人の群れに入ってしまえば、俺たちは普通のカップルだった。
「なぁ、ツーリングいつにする? 土曜そのまま行くか?」
「お前はまた一人で話を進めて……」
ギノがため息をつく。俺は笑う。俺たちは普通のカップルだ。そして普通のカップルがそうであるように、俺たちにとってたった一人の誰かを愛しているってことが、俺たちにとってたった一つの真実なのだった。