おそろい(同じ傷) 身体中にある傷だけが俺たちが共に持つものだった。俺たちは生き方すら違っていて、愛情の持ち方すら違っていて、同じところを探すのなら、仕事で負った傷ぐらいしかお揃いのものがなかった。銃弾をくり抜いた傷、ナイフで切り付けられた傷、爆弾の破片が減り込んだ傷。俺はそれが自分の身体にあることを、それほど気に病んではいなかったが、同じものが恋人の体にあることは気になった。あの美しい身体が、俺と同じもので汚されてしまった、そう思うと辛かった。
だから一度だけ、傷をとってみないかと、任務にかこつけて言ったことがある。あの時は潜入捜査をすることになっていて、身体に目立つ傷があるとよくなかったのだ。一流の諜報員は傷一つから過去を探るから、少ない方がいいと俺は言った。しかし彼はすぐにはそれに同意しなかった。これは自分の勲章だと、かつていた、頑固な軍人のように譲らなかったのだ。それに自分と俺とを繋ぐものだとも言った。俺は信じられなかったが、彼のそのロマンチストな部分を見てしまうと、もう何も言えなかった。
俺と彼を繋ぐものはほとんどない。セックスをしたって、それは短い間だけだ、繋がっていられるのは。狡噛、そう呼ばれて、キスをして、彼が望むまま身体をさすって、傷を確かめてまたそこにキスをして、俺たちはおそろいの部分を確かめるのだった。それが俺たちの愛し合い方だった。
結局、その潜入捜査では、恋人は軍用義肢に人工皮膚のカバーをかけただけで乗り越えた。進化して体温を持つようになったそれは触ってみれば面白かったのだが、笑っては失礼だから何も言わなかった。ただ、彼が腕を失わず、俺の前に再び現れた時はきっとあんなふうになっていたのだと思うと、少し苦しかった。俺の力が足りなくて、俺は彼の父も、彼の腕も失うのを見ているしかなかった。でも、彼はそれを誇りだと言うのだ。
俺たちはキスをする。傷だらけの身体で。唯一のおそろいである、ただの傷を大切にして。