冷たい頰(浴室へ) 痩せた頬に触れると、そこは思ったよりもずっと冷たかった。俺はそれを迎え入れるように包み込み、そうしてしばらくの間さすって、鼻をこすりつけてキスをする。すると彼はそれを喜んで何度も俺にひげの生えかけたそこを押し付けて、優しいキスをねだる。俺たちは玄関で、もしかしたら誰かが見ているかもしれないそこでそんな馬鹿なことをする。愛情を確かめるようなことをする。人前に出て、確かめるようなことをする。けれど確かめたところで、愛情は去ってはいかないのだろうか? 俺には分からない。ずっと逃げられた人々しか見ていなかったから、幸せなそれが想像出来ないのだ。でも、彼は丁寧に頬をこすりつける。そして俺はキスをする。その繰り返しが、俺たちのおかえりの挨拶だった。
狡噛が張り込みの任務を与えられたのは、一週間ほど前の話だった。とはいえ時代は小型ドローンなので、彼はただ出島のマーケットで麺を啜ったり煙草を吸ったり、本屋を回ったりしているだけでいい。何かが起こったら急行するだけなのだから、彼は休日を与えられたようなものだった。でもいつものように行動課のオフィスに彼がいないことは、俺の気を少しばかり病ませた。彼がいないことが日常になりやしないかと心配だったのだ。全く、馬鹿げているとは思うけれど。それが伝わったのかもしれない。彼がいないことが寂しくてたまらないのが伝わったから、彼は冷たい頬をこすりつけたのかもしれない。子どもが母親にそうするように、そんな子どもじみたことをしたのかもしれない。
「ずいぶん冷えてる。一緒に風呂にでも入るか?」
俺はふざける。すると彼もふざける。
「お前が脱がしてくれるなら最高なんだけどな。それから俺をもっと温めてくれたらもっと最高」
俺たちは馬鹿を言って浴室に駆け込む。多分、彼の言ったこと全部を俺はするんだろう。でもそれでいいんだ、許しすぎていると思うが、俺がそうしたいんだから。冷たい頬を甘やかして、愛情を伝えたくてたまらないんだから。