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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    任務から無事に帰ってきて欲しい宜野座さんとそれに誓う狡噛さん。
    800文字チャレンジ35日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    名前を呼ぶ日(言霊) 名前には言霊が宿っているのよと祖母に言われたことがある。だからみだりに名前を呼ばせてはならないし、伸元も呼んではいけない。沖縄の風習を受け継ぐそんな祖母の言葉に、幼かった俺は少し恐ろしさを感じて、しばらくの間友だちの名前を呼べなかった。俺が死んじゃえって言ったら目の前の友だちは死ぬと思っていたし、そんなふうに恐れていたから、初めてのガールフレンドにつまらないから嫌いって言われた時はどうしていいかわからなくなった。でもまぁ、それでもどうにか来ている。
     言霊信仰は廃れてしまったが、かつてこの国は言霊の幸ふ国だった。シビュラシステムが歴史を閉じ込めてしまってからは、そんなことを知る者も少ないが。けれど俺は時折祖母の言葉を思い出しては、狡噛が一人任務に赴く日、「無事に帰って来いよ」と言葉を送ることにしていた。そうしたらきっと、彼が無事に俺の元にも取って来てくれるような気がして。
     
    「ギノはよく喋るようになったな。今までなら飲み込んでたろうに、心境の変化でも?」
     ベッドで寝転びながら明日の用意をする狡噛を見つめていると、彼はそんなことを言った。俺は最初何を指しているのか分からず、最中の言葉が面倒だったかと思ったが、俺が明日任務に出かける彼に、どうか無事に帰ってきてくれと何度もねだったからだと最後には気づいた。でもセックスの最中にそんなことをねだるなんて、少しばかり恥ずかしい。
    「歳をとったんだよ。言わなきゃ分からないってわけじゃないが、言わなきゃ変わらないこともある」
     俺がそう言うと、狡噛は解いた髪を撫で、丁寧に額にキスをしていった。そして彼は言う。大丈夫、戻って来ると、お前の元に必ず戻ってくると。今までもそうだったように必ずお前の元に戻ってくると。
     それが彼の言霊だと気づいたのは、キスが深くなってゆく時のことだった。俺はそんなことを思いながら、彼が帰ってきたらとびきりに愛してやろうと、そんなことばかり考えて、「待ってる」と答えたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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