間接キス(ストロベリーシェイク) 初めてしたキスはいつだったか。そんなことを真面目に考える年でもないが、母によれば俺の初めてのキスは隣の犬なんだという。人間だけじゃなく動物もカウントするなんて良い母親だとともに酒を飲んでいたギノは言ったが、正直なところ、俺は彼の初めてのキスがさっきから気になってしょうがなかった。
始まりはこうだ。花城が読んでいた雑誌のカルチャー欄に、初キスの話題があった。初めてのキスを取り戻すことは自分の人生を取り戻すこと、が謳い文句の映画だ。あの場は花城の質問だけで軽く終わってしまったのだが、どうも俺たちは後を引いてしまって、官舎に戻ってまだその話をしている。酒を飲んで、簡単に作ったつまみを口にして、それからたまにくすぐり合って手のひらを合わせて。
「俺の話はこれで終わりだよ。ギノの初めてのキスの相手は? 男? 女? それとも動物?」
そんなふうに尋ねると、ギノは視線をそらし、どうだったかな、と考え始めた。幼い頃付き合っていた(彼によればおままごとの延長線上のような恋愛だったそうだが)相手がいるそうだから、その女の子だろうか? だったら可愛いな。可愛い恋愛をする可愛い恋人。俺の恋人は初めてのキスのエピソードまできっと可愛い。
「初めてバーガーショップに行って、そこで頼んだシェイクを友だちだと思ってたやつに取られて、それを返された時、かな」
ギノは笑ってそんなことを言った。ギノが初めてバーガーショップに行ったのは、俺が遊びを覚えろと連れて行ったからで、シェイクが美味そうだったから味見させてくれと頼みもせずに飲んだのは俺だ。じゃあギノはあの間接キスもカウントに入れてる? ストロベリーシェイク、甘酸っぱい苺の味。
「正しくは放課後の理科室じゃなくて?」
告白して、初めて触れた時にしたキスを言うと、彼は少し驚いた顔をして覚えていたのかと言った。失礼だな、俺だってそれくらいの記憶力はある。
「俺はお前が考えてるよりうぶだったんだよ、狡噛。もうそうじゃないって言ったら気に入らないかもしれないが?」
ギノが俺の首に腕を回す。俺はそれに甘い予感を感じながら、そんなの歓迎じゃないかと心を弾ませていた。