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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    二人の母親のこと。
    潜在犯堕ちした狡噛さんのお話。
    800文字チャレンジ42日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    優しい嘘(なんてつけない) 狡噛があえて俺につく嘘に気づいたのは、彼と関係を持ってしばらく経ってのことだった。それはほとんどが家族のことだった。母親との関係を彼は口にせず、俺に黙っていた。授業参観って年でもないから俺は彼の母親とすぐには会わなかったが、時折行く狡噛の家で二人並んで撮られた写真を見ることはあった。狡噛と同じ色の目をした、さっぱりとした女の人に見えた。けれど彼は俺がそれを見ていると知ると写真たてを隠そうとしてしまうのだ。多分、母親の話題になることを避けて、なぜなら俺の母はユーストレス欠乏症で寝たきりだから、だから俺は母と喋ることも出来ない可哀想な子どもだから。最初のうちは狡噛にそんなこと気にするなと言った。俺の父は潜在犯だったし、それは皆が知っていたし、今さら気遣われてもどうにもならないと。でも、狡噛は何度も俺に嘘をついた。母さんとは最近話してないな、なんて、手ずからの料理を食べさせてもらいながら、そんなふうに俺を優しく拒絶した。
     
     そんな狡噛が初めて母親に関して生の感情を見せたのは佐々山が死に、自分が潜在犯堕ちした時のことだった。狡噛の主要連絡先は母親になっていたから、監督する俺がコールしたのだが、自分の息子の状態を聞いても、あの人は気丈に立っていた。そうですか、分かりました。何かありましたらまた連絡してください、協力は惜しみません。冷たいくらいに冷静な物言いに、俺はどうしていいのか分からなくなった。だから嘘を言った。おばさん、心配してたぞ、なんて、真っ白な服を着せられた狡噛に。すると狡噛は笑った。
    「嘘だね、母さんは一度もここに来たこともないんだ」
     俺は嘘を失敗したことに気づいて、けれどもうどうにもならなくて、「そうか」と言った。「でも心配してた」とも抗うように付け加えて。
     狡噛の母親がなぜ更生施設を訪れなかったのかは今でも分からない。ただ優しかった母親が息子の潜在犯堕ちが理由で何らかの変化をしたのは事実のように思えた。でも俺はそうなって欲しくなかった。母親と意思疎通すらできない俺を慮って嘘をついた狡噛のように、俺は狡噛の母親について思ったのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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