Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    祭り終わりの話。
    800文字チャレンジ44日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    祭りのあと(花火) 出島では入国者によって数多くの祭りが催される。俺たちはそれが大々的であればあるほど警備に駆り出される羽目になる。行動課は実働部隊だって? それは名目上のことでしかない。そもそも人員を割き辛い公安局の人数とドローンの数では祭りの警護には足りず、海外調整局で余っているのは俺たちくらいのものだった。それに祭りの日は事件がよく起こる。俺たちが想像もしないものが。
     今日はチャイニーズマフィアと繋がった公安局員を逮捕する羽目になった。詳細は省くが、スキャンダルが世に出る前に裁けて良かった。恩も売れたというものだ。そんな俺たちは日本風の縁日を歩きながら、水っぽいビールを飲んでいた。花城の奢りだ。彼女はその逮捕した公安局員を須郷と護送してしまって、俺たちは二人きりだった。ギノは汗をかいた首筋を拭いながら水のようなビールを飲んでいる。俺はもう少し濃いものが欲しくて、チップを握らせて瓶ビールを頼んだ。
    「狡噛、そろそろここを離れて戻らないと……」
    「いいじゃないか、今日くらい。今日で祭りも終いだ。最後の花火を見て帰ろう」
     俺はそんなことを言ってギノと出島の狭い道なりを歩き始めた。浴衣を着る少女たちが通り過ぎてゆく。手にはふわふわのわたあめ、赤いリンゴあめ。甘い香りがまとわりつくようだ。
    「ほら、もう始まる。急ごう。場所取りは昔から上手いんだ」
     汚れたバラックの上に乗って、狭い小屋の屋根を歩く。ギノは足を踏み抜きやしないかと心配しているようだった。でも、俺たちと同じような人々はそこかしこにいる。
     その時、花火が鳴った。俺はギノの手を掴んで、ほら、と空を見せてやる。するとギノの綺麗な横顔に赤い火花が散った。オレンジ、緑、黄色、ブルー。それは色を変えて彼を彩る。俺はそれをずっと眺めていた。祭りが終わってしまうまで。美しい彼をずっと見ていたかった。彼は振り返らなかった。それがとても嬉しかった。
    「狡噛、今度こそ帰ろう」
     ギノが言う。祭りは終わった。あの魔法のような時間は終わってしまった。俺はそれにあぁ、と答えて、日常に戻ったのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works