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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    二人の恋敵は?
    800文字チャレンジ47日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    恋敵 行動課の仕事が激務だということは分かっていた。大型機の操縦訓練の日まで設けられているくらいだから、仕事が入っていない日は鍛錬の日とされている。ボクシング、プール、ランニング、ありとあらゆるトレーニングのための機械が行動課にはあり、俺たちはそれを少ない人数で回していた。そして今日の俺のメニューはティルトローターの操縦訓練だった。もちろんあの空を飛ぶ船を動かすわけではない。操縦桿を握りこそすれ空は飛ばない。全てドローンパイロットのように小さなコックピットに入って行われる。今日それをするのは俺の番で、昨日は須郷だった。須郷は元ドローンパイロットということもあり操縦が上手く、今は俺の倍先を行っている。そのためには距離を少しでも縮めねばならない。今日でそれが上手くいくかは謎だが、するしかないのは確かだった。
    「あら、ため息? 珍しいわね」
    「俺だってため息ぐらいつくし苦手なものもあるんだ」
     そう言って俺はコックピットに入った。そこに入れば、俺はもう一人のパイロットだった。
     
    「お疲れ様でした。今日はずいぶん調子が良かったんですね。スコアも最高ですよ。このままじゃ俺も追い越されちゃいますね」
     ビルの間を飛び、銃弾の雨の中を通り抜けて護送対象を公安局ビルまで送るという仮想ミッションをこなした俺は、須郷に褒められて喜びながらもどっと疲れていた。このままじゃあ帰っても飯を食ってシャワーを浴びれば一日が終わってしまう。それは考えただけでうら寂しいことなのだが、仕事なのだから仕方がなかった。これは俺が選んだことなのだし。
     でも、たまにこれが俺の恋敵なのでは、と思うことがある。狡噛と付き合い始めてもう二十年近く経ち、二人を遮るものなんて何もなかったが、その時々で障害となったのはいつだって仕事だった。そう、俺たちの恋敵は仕事だったのだ。そう思うと操縦桿を投げ付けたい気分だった。
     それでもデバイスにコールが入って、それが狡噛のものだと知れると、俺はすぐに駆けつけたくなってしまう。今回のスコアを褒める花城の元を飛び出してしまいたくなる。あぁ、早く終わってくれ。今日くらいは勘弁してくれ。恋敵よ今日くらいは俺に狡噛をくれやしないか。俺はそんなことを思って狡噛の誘いにイエスと返した。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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