[11/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス ゲームに興じる人々の喧噪を離れ、バルコニーから夜空を見上げる。慣れない正装に身を包んでいる甲斐もあって、今宵の少女はカクテルグラスを持っていても違和感がない。
「会いに来て欲しいなら、私を責めるだけじゃなく、あなたの方も外出を控えたら良いじゃない」
「それはそれ。ほら、会えない時間が長い方が想いも募るだろうし」
片目を閉じるエースに、折れる気が無いことを察したアリスはすぐさま応戦する。
「あら、会えば会うほど惹かれる、って説も広く知れ渡ってると思うけど?」
「それは君の体験が伴っている意見?」
てっきり世間一般の通説をふっかけ合っているのだとばかり思っていたアリスは、エースの問いかけに虚を突かれた。グラスに半分だけ残った酒に、星々が浮かんで波が立つ。
「俺は、自信を持ってそう言えるよ。日常のふとした瞬間に思い出して、でも、会えなくて。だから、会いたくて。それを繰り返す度に、降り積もっていくんだ」
エースの瞳はアリスを捉えてはいなかった。
ずっとずっと遠くの。月よりも星よりも彼方を静かに見詰めていた。