[19/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 差し出されたのは、花束と呼んで良いものか躊躇われる程の、小さな花の束だった。
花屋で買うような、大きさも形も整った花ではない。草原に寝転がった時に視界の端で揺れるような、ありふれた、どこにでもある草花。けれども命に貴賤は無く、小さいながらも凛と美しく花開いている。
「このリボン……」
受け取ったアリスは花の次に、茎を縛っているそれへと視線を移した。見覚えのある水色のリボンは恐らく、渡したスコーンのラッピングに使っていたものだ。
「捨てられなくて、ポケットに入れっぱなしだったんだ」
「分かる、紐もリボンも取っておくと便利だものね」
「っく、はは、君らしい合理的な考え方だ」
心底可笑しそうに、エースは腹を抱えて笑った。
僅かばかりの幼さが滲んだ眦。体躯に似合わぬその色で、彼は高らかに宣言する。
「君の色だな、って。そう思ったらなんとなく、捨てられなかっただけだよ」
掌に乗せた花束とエースとを交互に見て、アリスの大きな瞳は幾度と無く、瞬いた。