天使とゆりかご 年内に片付けなければならない仕事を山ほど抱えた師匠の最上の手伝いで働き詰めの迅は、疲労困憊していた。すっかり常連になってしまった遅い時間帯のバスに今日もフラフラしながらなんとか乗り込んだ。
住宅地へ向う路線はなぜだか終バスに近くなるほど込み合っていて、ふたり掛けのシートにやっと滑り込んでため息をつく。
あ~もうダメだ。晩飯もいいや。とにかく風呂入って寝よう……。
バスの揺れに眠気を誘われていたときだった。バスが急停止してガクンと前につんのめった。
「……っぶな」
車内がさざめく。どうも信号無視の車がいたらしい。車外スピーカーで怒鳴る運転手の声。
揺れに耐えようと前の座席の背もたれをとっさに掴んだ手。隣に座っている人の、同じようにしているその手をふと見ると、手の甲になにかが浮かんでいるのが見えた。
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