大丈夫なのか、アイツ。
箒で木の葉を掃きながらちらちらと校門の方を見やって早三十分。
校門前に佇む他校生は変わらずその場に立っている。
金髪で茶色のメッシュが入っていて、着ている制服は見たところ西高。鞄の他にきっとギターが入っているであろう形のバッグを背負っている。
西高の男がこの百万北高校に一体なんの用だというのだろうか。
百万北高校は進学校で、とても校則が厳しい学校である。
今までは進学校といえばまあこんなもんだよね。みたいな校則ぐらいしかなかったのだが、最近生徒会長へと上り詰めた男、マリオン・ブライスによってそれは覆されてしまった。
校則、もとい血の掟と呼ばれる厳しい決まりの数は優に百を超えていて、全て覚えている者など決まりを作り出した本人である生徒会長以外はいない。
そんな厳しい校則を守れる者など、進学校である優秀な生徒であっても数少ない。
俺は他よりちょこっと勉強ができて、ちょこっと家が裕福な方だっただけでこの学校に幸運にも受かっただけである。…自分で言っといて悲しいけど。
この有名校に通えることになって自分はなんて運がいいのだろう!と初めの頃は自身の幸運ぶりに感謝をしたが、あの時の自分に言いたい。
百万北高校はやめておけと。
というかそもそも、全ての元凶は生徒会長である。
アイツさえいなければこんなクソみたいな校則に縛られることなんてなかったし今現在も箒で外を掃除するなんてことはしなくて済んだのだ。
今日俺はうっかりネクタイをつけてくるのを忘れてしまった。たったそれだけだというのに、生徒会長に信じられないだとか罵られ罰として校門近くの掃除を命じられてしまったのである。信じられないのはこの罰則だ。
たかがネクタイひとつ忘れただけでこの仕打ち。俺の貴重な放課後の時間を返せ。
なんて生徒会長本人に向けて怒ることができたらいいのだが、あの生徒会長は普通に喧嘩も強い。喧嘩というか、一方的にこちらを鞭でしばいているのだが。
よくその鞭の餌食になっている南高から転校してきた不良は腕とかに傷が絶えないし、それを見ていたら流石に逆らう気持ちなど湧いてこない。
泣く泣く俺は生徒会長の指示に従って校門近くの掃除をするに至った。
そしてそんな掃除をしている最中見つけたのが校門前にいる他校の生徒だ。
きっと誰かを待っているのだろう。
そわそわと辺りを見回して目的の人物が来るのを心待ちにしている様子が見て取れる。
待ち人が北高の誰かなのはいいが、校門前なんて目立つ場所じゃなくてもっと他の場所を待ち合わせにすればよかったのにと彼に同情せざる終えない。
生徒会長は他校の生徒だろうが容赦しない。
この前、南高の制服を着た赤髪の男が北高にやってきたことがあったのだが生徒会長と遭遇したことにより喧嘩勃発。鞭でしばかれて逃げ帰る羽目になっていたのだ。
きっと今日来ているあの西高の金髪少年もその末路に至るのだろう。
そうなる前に帰るべきだと声をかけてやるか数秒悩んだが、そんな義理はないのですぐにその考えはやめた。
とはいえ、人が怒られている様を見るのは気分がいいものでもない。
あの金髪少年が早く目的の人と合流して、生徒会長に見つかる前に帰ることをひっそりと願った。
しかし待てども待てども待ち人は来ないらしく、その少年はなかなかその場から動かない。
少年は一体誰を待っているのだろうか。
大方友達か、恋人の二択だろうなと思い至る。
さてはて、どちらなのやら。なんて考えていた時にふと気づいたが、そわそわと辺りを見渡す少年の頬がほんのり赤い。
これはきっと友達ではなく恋人を待っているのだろう。
少年は見た感じ背が低いので高校一年生に見える。というか、制服を着ていなかったら中学生と見間違えるほど小さい。
そんな少年に恋人がいるかもしれないという事実に俺はなんだか怒りが湧いてきた。
こちとらもう高三にもなって彼女一人出来たことなんてねえわ!
大した趣味もなければ運動もできないので、唯一できる勉強ばかりしていい高校には入れたものの、よくわからん校則に雁字搦めにされただけで彼女なんてできる兆しもない。
それなのにあの少年には他校の彼女がいる。
これがムカつかずにいられるか!
先ほどまで少年を心配していたというのに、今の俺は生徒会長に鞭で打たれてしまえとまで考え始めていた。
そんな俺の願いに呼応するように校舎から存在感を放つ人物が現れる。
生徒会長のマリオン・ブライスだ!
生徒会が終わったのだろう。
まっすぐ校門まで歩みを進めている。
いいぞ、行け!校門にいる少年に鞭をいれろ!!!
校門へと向かう生徒会長は当然、少年の姿を見つける。
そして少年もまた生徒会長の姿を見た。
他校でもそれなりに有名な生徒会長だ。
もしかしたら少年も知っているかもしれない。
なんていう俺の予測はある意味では当たり、ある意味では外れだった。
少年は生徒会長の姿を見つけるとまるで想い人を見つけた時のように嬉しそうに顔を綻ばせた。
え、何。生徒会長のファン?なんて思っていると生徒会長は小走りで少年へと近づく。
いけ!そこだ!鞭を出せ!!!
心の中で声援を送るも、生徒会長は鞭を取り出すなんてことはしなかった。
それどころか嬉しそうに笑っている。
真顔か怒った顔しか見せたことのなかった冷徹なあの生徒会長が笑っている…!?
これは一体どういうことだ。天変地異の前触れか!?
思わず凝視していると二人は少し言葉を交わすとどちらからともなく手を繋ぎ、そのまま仲良く歩いていった。
…いや、少年の待ってた恋人って生徒会長かよ!!!!