出世し過ぎたミュラーの話(続き)■I.軍務省占拠の夜■
――自分はここまでなのだろうか。
軍務省になだれ込んで来た武装兵たちは、荒くれで有名な黒色槍騎兵艦隊だ。上空に覆い被さる漆黒の艦艇を見紛う帝国軍人は居ない。
正規軍による『来襲』の報を受けたナイトハルト・ミュラー中将は彼我の被害を最小に抑えるため、自らの声の届く範囲でとにかく抵抗や妨害をせず、武装兵の指示に従い刺激しないよう指示を徹底した。
近い未来にこうなる事はわかっていた。趨勢は決している。帝国軍同士戦っても勝てないばかりかまったく無意味な争いだ。ローエングラム元帥にあからさまな敵意を抱いていた貴族の高級士官たちは大半が職務を放棄して持ち場を去っていたため、混乱も被害も少なかった。
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