不思議な中華料理屋さん「ねぇ、今日は中華料理屋さんで食べようよ。」
父が言った。
「ほら、神社の前にあるあの中華料理屋さん。あそこ美味しいらしいよ。行ってみたい。」
しかし母が言った。
「ダメよ。あそこの中華料理屋さん、お行儀のいい人しか入れないんだから。」
『行儀のいい人しか入れない中華料理店』。
なんと、客が店に行きたい時に行くのではなく、店側が客を招待するのである。
しかも厳重な審査を経た上で。
最近、大学でも、何人かのクラスメートが噂話をしていた。
それからしばらくして、私はその店に呼ばれた。
まだ料理を食べられると決まったわけではなく、これから審査をするらしい。
意外にも、その料理店にはたくさんの『審査をされる者たち』がいた。
大学のクラスメートや、小さな子どももいた。
私たちは、なぜか学校の体育館のようなところに集められ、そこで審査をされている。
みんなが列に並び、まずは一人ずつ簡単な自己紹介をしていく。
私の番が来た。
私は緊張でガチガチになりながら自己紹介をした。
よく文章の順番を間違えた。
店長はちょっぴり白髪のイケてるおじさまで、列に並ぶ者たちを興味深そうにみていた。
なんとか次の審査には進むことができた。
審査で落ちたものの中には、店長に怒りの目を向けるものもいた。
なぜかハンドグリッパーをキュッと握りしめている客がいる。
「なにやってんの?」
「これからお前を倒すために握力を鍛えてるんだよっ」
「俺の握力一〇〇キロだけど……」
イケてるおじさまは、ジョークもお好きなようだ。
続いて、なぜかボール投げが行われた。
店長がボールを投げて、それを客がキャッチする。
……はずが、私はボールをほとんどキャッチすることができなかった。
続いて店長が棒をくれたので、野球のように、棒でボールを跳ね返すことができた。
「やったぁ!!」
「そのぐらいで喜ぶってことは、初めてこれをやったってこと?」
ぎょっとした。冷や汗が頬を伝う。
「キミ、怠惰だねぇ……」
店長が呆れ顔で私を見ている。
「自分の領域を広げることについてどう思う。」
「はい。それは重要だと思います。『現状維持は退化』と言われていることも知ってます。」
私は店長と会話した。
「すみません……コンテストなどに応募していると、時間がなくて……」
店長は初心者向けの運動について書かれた茶色い古臭い紙をくれた。
なんとか採用された。
「この子は有名な料理人の末裔なんです!! この子には、ここの料理を食べなければならない理由があるんです!!」
お父さんらしき人が料理人と揉めている。そばには息子らしき子どももいた。
あー、こんなことしてるようじゃ採用されないのでは……と思った。
店長に、狐ドラゴンの卵の差し入れがあった。これで中華料理を作ってほしいらしい。
「狐ドラゴンの卵を中華料理に使うなんて聞いたことがないが……」
しかし店長は、狐ドラゴンの卵を大事に食糧庫へと収納していた。
家に帰り、わたしは両親に、中華料理店のことを話した。
「客に対してそんな態度をとるなんて、ひどい中華料理店だねぇ。」
父は相変わらずうぅうぅと唸り、愚痴をこぼすのだった。
「これってさ……私が採用されたとしても、うちのパパ連れていったら、即出禁になるのでは……?」
などと私は考えるのだった。