11/8「ハッピーバースデートゥーユーっ♪」
「ハッピーバースデートゥーユーっ♪」
「「ハッピーバースデーディア」」
「アイちゃん♪」「テーネ♪」
「ハッピーバースデートゥーユーっ♪」
「「いえーーっ!」」
「うるせえカリスマ共!!」
痺れを切らして絶叫したのは、ヌビアの子、感覚であるトゥニャだった。その様を見て、苦笑する声がそこここから聞こえる。総勢14名のヌビアの子は、一同に介していた。
───と、言っても、集まりたくて集まったわけではない。近々、このヌビア学研究所が、ヌビアに関する研究結果を市民に分かりやすく知らせることを目的とした祭りを実施する。それに際しての伝達のために、研究所内の講義棟に集められていたのだった。
いずれにせよ、全員の視線は今カリスマ双子────アイールとテネレのもとに注がれている。《カリスマ》として人並み以上に目を引く彼らが歌など歌っていたのだから、当然のことと言えた。
「アイールとテネレは、今日が誕生日なのかい?」
声を上げたのはカステルだった。その質問を受けると、待っていましたと言わんばかりにアイールとテネレは明るい表情を見せる。
「「そうなの!」」
「へぇーっ、そらええなあ。おめでとさん」
拍手をしたのは、ラナークだ。付き合うように、隣に座るエルベが「おめでとよ」と言いつつ雑に拍手をし、また隣のハンザが無言で拍手をする。心の籠もり方という意味では疑う余地のある祝い方だったが、アイールとテネレは素直に「「ありがとーっ♡」」と返す。
「アイちゃんとテーネちゃん、お誕生日だったんだね、おめでとう」
ふわっと笑いかけるのは、ラサだった。裏のない素直な祝福。カリスマ双子は一層笑みを明るくして、ばっとラサに駆け寄る。
「わーん!ラサちゃんありがとーっ!」
「嬉しいーっ!」
うふふ、とラサはまた微笑む。はたから見れば、ふわふわと可愛らしい女子三人衆だ。無論、その実、一人は少年なのだが。
「私からもお祝いさせてください。アイールさん、テネレさん、お誕生日おめでとうございます」
続いて凛とした声を上げたのはリヨンだった。双子が「ありがとーっ♡」と返すと、リヨンは「ところで」と続ける。
「本日は、ご実家でお祝いなどはされないのですか?」
「うん、するよーっ!」
「パパとママが、パーティしてくれるの!」
二人が笑顔で頷くと、一部に僅かにさめた空気が漂う。リヨンたちがおやと思うより先に、その意味を口にしたのは、頬杖をついてニヤニヤと笑うハトラだ。
「さっすが、お金持ちのご令嬢さんたちは違うねぇ〜。庶民とはわけが違う」
「庶民と、って…」
テネレがハトラにムッとした顔を向ける。ハトラはケタケタと笑いながら続けた。
「7つや8つの子供でもないのに、そんな盛大に祝う家は多くはないんじゃないかな〜?…少なくとも、この《ヌビアの子》の中ではねぇ」
「「「え、」」」
アイール、テネレ、それからリヨンが揃って周囲を見渡す。誰もが理由の有無にかかわらず目を逸らし合う中、一番最初に目線が集まったのは、近くにいたラサだった。
目線の集中を察したラサは「ええと、」と呟いてから微笑む。
「うちは、今でもお母さんが祝ってくれるよ。パーティ、なんて盛大なものじゃないかもしれないけど…」
「パーティなんて名前がつくのは、やっぱりご令嬢方だからだよねぇ」
ハトラは言葉を重ね、歯を見せて口角を上げる。
「リヨンとハンザは地方の大地主の子息だし、アイールとテネレはご両親が中央都市省庁の高級官僚。そりゃ、こちら庶民とは感覚も…」
「ハトラ」
愉しげに続けるハトラを制したのは、ハンザだった。低く落ち着いた声が、部屋の空気をピリッと締める。
「如何なる内容であれ、個人の出自を面白がることはならない」
真面目一本気なハンザの言葉は、金属を打ち付けて均すようにハトラの高揚を鎮める。「はいはい、ご教授どうもねぇ」と言って、ハトラはそれきり口を閉ざした。
妙な雰囲気の漂う中、やはりその空気を打ち破って明るくするのもまた《カリスマ》だった。先に声を上げたのは、その兄だ。
「ま、もちろんパパとママも祝ってくれるんだけどー、やっぱり友達同士パァーッと盛り上がりたいじゃない!」
アイールの言葉に、妹も続く。
「そうそう!お祝いごとなんて盛り上がったもん勝ちじゃん!近い人の誕生日皆合わせてでもいいからさ、思いっきりパーティしようよ!」
二人の言葉に、戸惑いを浮かべるもの、いいなと同調するもの、やや引くもの。一瞬、反応は多種多様さを見せた────が、
「「ね、やろうよ!」」
《カリスマ》の双子がそう言えば、───たとえ深い人付き合いを嫌うナスカやセーヌであっても────(なんだか良いな)と思ってしまうのだった。
「で、近い誕生日って?」
エルベはハンザを見上げて問う。《記憶力》を頼ってのことだった。ハンザはすぐに応える。
「ラリベラ、10日の生まれのはずだ」
その声で、一挙に13人の目線がラリベラに向く。ラリベラは、常と何ら変わらない平坦な笑顔で「そうだねー」と答えた。《カリスマ》の二人は、表情を明るくしてラリベラに駆け寄る。
「やったー!じゃあ3人分のパーティーだね!」
「今週末、決定ねーっ!」
「んっ?ん、ははっ」
あれ絶対ラリベラ聞いてなかったぜ、とぼやくのはトゥニャだった。
いずれにせよ、この《カリスマ》の思いつきが、彼らヌビアの子たちが誕生日を祝い合うプロローグになったのだった。