ビーバームーン【笹塚創】 テラスのベンチに笹塚が座っているのが見えた。日も落ち、冷たい風が吹き始めた時間に一人で何をしているのだろうか。
もしも録音中だった場合に備え、余計な音が入らないようにそおっとテラスに続く扉を押し開けて覗くと、笹塚は缶コーヒーを片手に空を見上げているだけのようだ。そばに寄ってみると、持っているのはコーヒーではなくココアだったらしく、甘い香りが漂っている。
「笹塚さん、おかえりなさい」
「ああ、朝日奈か。ただいま」
「玄関通ってませんよね? ここで何やってるんですか?」
笹塚はチラリと一瞥して朝日奈の存在を確認すると、すぐまた空を見上げる姿勢に戻ってしまう。
「今日ビーバームーンの月食だから」
「え? ビーバー……⁇」
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