彼はぼくの長い髪を梳くのが好きだと言う。
柔らかな朝の陽射しが入る部屋には彼の好みで買った白い木製のロッキングチェアと色々な櫛や髪飾りが綺麗に揃う銀色の小さなラックが置いてあり、この部屋だけは自分の城だという意識を常に感じさせている。
彼は今日も椅子に腰かけたぼくの髪をそっと撫でながら優しく櫛を通す。思いが通じあい、本当の家族になってからほぼ日課であるこの時間がぼくは凄く好きだ。
そして、いつもぼくが自分でやるからと言っても頑なに嫌がり態度を崩さない所は昔と変わってはいないけれども、あの頃はつっけんどんに返事をしていた彼が今は優しく答えてくれている。
「……今日は、どうする?」
優しくぼくの頭を撫でながら櫛を通す彼。
彼がぼくにこう聞くときは、何かアレンジをしたい日だという事を最近理解した。それ以外の日は何も言わず2つ髪から更に編み込みをつくってくれている。
「ダークのしたいアレンジが…いいかな。ぼく、ダークが結ってくれるならどんな髪型でも好きだよ。」
そう返すと少し照れているのか梳かした手を少し止め、暫くして先程と同じようにまた優しく彼の持つ櫛が動きだした。
カチャカチャと今日のイメージの小物を取り出し、両サイドを少し編んで後ろで纏めた髪にそっとさっき選んだ飾りを足す。
ふわっとしたハーフアップスタイルは彼の中では特にお気に入りのヘアスタイルで、その日その気分にあわせて小物をかえて楽しんでいるようだった。
「ダーク、ぼく今日も可愛い?」
重心をずらしロッキングチェアをキィ…と音をさせて揺らしながら振り向くと
「……可愛いに……決まってる…。」
と腕で顔を隠しながら赤面している彼。
その姿に『あぁ、幸せだなぁ。』と思っていると、ぼくにペースを乱されて「くそっ」と思ったのか彼がぼくの額に口づける。
突然の柔らかい唇の感触とあまりの出来事に驚き口をぱくぱくしているぼくに、
「……今日……買い物に行く予定だろうが……着替えて行くぞ……。」と彼は恥ずかしそうな様子で後ろを向きながらクローゼットを開け、今日のコーディネートを決めるための準備を始めていく。
そんな何気ない日々がぼくが生を受けてからずっと今まで夢にまで思っていた幸せなんだよなぁ……と思い、そっと背後から彼に抱きついた。