シャドー、と彼がぼくを呼ぶ。
「急用だ、あっちの世界での話し合いで帰りが遅くなる。」
そう言われてぼくは淋しいと思いながらも「…わかったよ。気をつけて行ってきてね。」と呟いた。
本当はぼくも一緒に行きたかったのだけれども彼は帰りが夜中になるかもしれないし、それまでシャドーを待たせるのは申し訳ないと言ってぼくに留守番を頼みこんだ。
その事に彼は少し申し訳ないと思ったのか、仮面を軽く上げぼくの頬に唇を落とし、玄関に立て掛けておいた武器を持って家の扉を開けた後にセントラルサークルに向かって翼を広げて飛び出していく。
段々と遠くなる彼の姿を見送りながら、ぼくは ほぅ… とため息をついた。
最近……心配症の彼には内緒にしているのだけれど、ここ数日頭がぼぅっとして少し気分が乗らないときがある。その事に彼も気付いているのだろうか、ぼくに無理をさせる事が少なくなってきた。
元々一緒にいたけれども、更に「結婚」という名の未来永劫2人を縛る肩書きも増えたことも関係してなのか自分を置いて何処にも行かないという事に互いに安心し、前よりも我儘にもなったし甘える回数も少しずつだが増えてきた。
今回のぼくの事も彼にとっては色んなぼくの一部を垣間見た…とでも思っているのだろう。少し様子を伺いながらの反応か、ただ単にどう対応すべきか…と考えての行動なのかはぼくにはわからなかった。
「…少し気分が悪くなってきた……ゆっくり横になろう……。帰りが夜中だったらぼくが寝てても何も思わないだろうし……。」
そう言いながら重い体を引きずり、ぼくは布団に潜り込んだ。
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「何…?最近シャドーの様子がおかしい…だと?」
俺はピンク色したシャドーの片割れの家に向かい、鏡の先に居る腐れ縁の片割れにこと細やかに相談した。
だが、アイツにもわからない事があるらしく首を横に振られて「すまない…。」と言われた。
畜生…あいつの為にも何とかしねぇと…と思っていたら、シャドーの片割れが疑問に思ったのか
「ダーク、ちょっと待ってて!」と言いながら俺の前から姿を消した。
残ったのは俺とオリジナルの2人、少し気まずくなる。
「…にしてもだな……お前もアイツん家に通い夫…してるんだな。」
「…何のことだか。私は此方を拠点にしつつもハルバードの一室に彼女の住居を構えたまでだ。」
待っている間に互いの腹の中を探るような話をしていたらカービィが小さな小袋を入れた紙袋を持ちながら小走りで駆けて来て、俺の右手に持ち手の部分を引っ掛けた。
「ダーク、これをシャドーに渡して。あと……先ずはシャドー1人にこの中身を見てほしいから…申し訳ないけれどダークは見るのを我慢して…ね?」
そう言いながらカービィはいつも以上に真面目な表情をしながら俺の方をじっ…と見る。
これは約束を破ったらシャドーにもこいつにも俺の片割れにも絶交を言い渡されそうな気がしたので
「ああ……確実にシャドーに渡すからな…。」と答えた。
その瞬間、カービィはホッとしたのか
「もう話は終わったも同然だよね!シャドーが待っているから気をつけて帰るといいよ!あ、あとこれ!ワドルディから貰ったグレープフルーツとオレンジ!!2人で是非食べて!!」
と言いながら果物の入ったビニール袋を今度は俺の左手に引っ掛ける。ずしっとする果物の重みとは違い、紙袋はかなり軽かった。一体中身は何なのだろう……と思いながらも俺は礼を言ってポップスターを後にした。
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カタン…という音で目が覚める。
…って言っても気分が悪く、眠れなくて目を瞑っているだけだった。
くらくらする…と思いながらゆっくりと体を起こすとコンコン…と音がして、ノックの後に彼がカチャリ…と扉を開けた。
「シャドー…帰ったぞ……。」
時計の短い針はまだ上を向いていないというのに彼の姿がある……少し不思議に思っているとダークは紙袋をぼくに向かってそっと差し出した。
「調子はどうだ……?あと……これ…ピンクのあいつからだ……。」
気になって開けようとしたらダークが
「アイツがその紙袋の中身はお前だけ先に見てほしいって言っていた。お前が見ている間に俺は貰った果物を冷蔵庫に閉まってくる。」と言って部屋を後にした。
何だろう…?ぼくにだけ先にって……って思いながら中の小袋を開けると、小さな長細い箱と可愛いデザインをした便箋がついていた。
カサ…っと便箋を開き、目を通す。内容は、
『シャドーへ
ダークから元気がないって聞いたよ。
もしかしたらもしかして……と思って、とある物を入れておきました。えへへ…びっくりしたよね?君の体調も、心も元気になりますように!!
追伸 ボクも今、君と同じ気持ちなんだ…互いに頑張ろうね。 カービィより。』というものだった。
ぼくは驚きながら箱の中身の紙を取り出し、そこに書いてある文字を一生懸命頭の中に詰め込んだ。
一通りすべての文字に目を通し、箱から取り出した細長い棒が入った袋をぎゅっと握りしめながらぼくは部屋を後にした。
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ぱたん……と扉の閉まる音がする。俺の居る居間から聞こえるであろう扉の音は風呂か手洗い。……シャドーの調子からして風呂…という感じでは無かったのでもしかして体調が悪くて手洗いか…?と思い急いで駆け寄る。暫く扉の前で待っているが、静かで何も音がしない。もしかしたら倒れて居るのでは…と心配になりノックをしようと思った瞬間、キィ…と扉が開いた。
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嘘でしょう?嘘でしょう??
見本の線が入った丸の横に同じ印の丸がある。
その印を見た瞬間、ぼくの目からポロポロと涙が溢れ出る。
この気持ちを彼に伝えたくて扉を開けると目の前に心配そうな顔をした彼が立っており、何か言いたそうにこっちを見ていた。
「ダーク……ダーク……ぼく……ぼく……!!」
余りにも嬉しすぎて言葉が詰まる。
心配した彼は「どうした…?体調がいまいちなのか…?辛かったら医者に……。」とぼくの心配をして辛そうな顔をする。
「違うの………ぼく達の……あかちゃん……やっと来てくれたの……きてくれたのぉ………っ!!」
興奮して涙が止まらない。嗚咽交じりに泣くぼくを彼はぎゅっと優しく抱きしめた。
どうやら彼も天井を見上げながらグスン…と涙しているようで、時々鼻を啜るような音が聞こえてくる。ありがとう……ありがとう……と思いながらぼくは彼の体をぎゅっと優しく抱きしめかえした。
「…急用って…ぼくの事だったの?」
少し落ち着いてから、ぼくは彼に聞く。
「……ああ。俺にとってはお前に関わる全ての事が急用なんだよ……。ずっと体調がイマイチなお前を見てたら居ても立っても居られなくて…アイツ等に相談しに行ってたんだ……。後はもう…わかるだろ?アイツからの荷物の中身……それだったんだな。」
途中恥ずかしがりながらも優しく答えてくれて、ぼくの心があたたかくなる。
「うん……やっぱりカービィはぼくの片割れなんだね。何となくそう思っていたみたい。……へへっ……。」
そう言いながらにこっ…てぼくが笑うと彼は、
「…確かにな。…って事はアイツ等の所も……ってことか……。」と言い、頬を掻きながら「マジか…。」と小さく呟いた。
「ふふっ……まさか、まさかね!」
ぼくは彼の考えた事が現実になるかも…と思いながら彼の方を見てにこにこと笑った。
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「メタ!メタ!聞いて聞いて!!あのね……。」
「……………っ!それは……本当の話なのか…?」
「うん……ほんとだよ。びっくりした?」
「…当たり前だろう…………カービィ…ありがとう……。」
Fin