手中の獣──談話室はいま、膠着状態にある。
一歩踏み入れたら動揺を勘づかれてはいけない、尾首にも疑問を滲ませてはいけない。
談話室のソファーへ視線を向けてしまった魔法使いたちは、みな一様に固唾を飲んだ。
だが、魔法使いたちが心配と動揺に苛まれる中、渦中のふたりは飄々とした顔で寛いでいた。
「ミスラ、少し痛いです」
「はあ、すみません。……これくらいで痛いなんて、人間は弱いな」
晶に窘められたミスラは、面倒そうにしながらも応えた。
晶はいま、ミスラを背にして足の間に腰を落とし、ソファーで淡々と本を捲っている。そして、背後でだらけるミスラは、晶の髪をすいていた。
そう“あの”北のミスラが女性の髪をすいている光景に、居合わせた魔法使いたちは叫びそうになるほど戦いていた。
1964