Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Khr5fIre

    @Khr5fIre

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🙏 🐱 🌠
    POIPOI 71

    Khr5fIre

    ☆quiet follow

    ドロ未満。ロが骨折したことからはじまる話。単行本追いついてはしゃいでたらなんかできてた。

    #ドロ
    crockery

    ドロ未満 ロナルドくんが両腕を骨折した。
     聞いた話では、それなりに凶暴な吸血鬼相手に単身で対峙をしたとか。いくらゴリラといえど無茶が過ぎるだろうと説教したら、ギプスした腕で殴られて私は死んだ。ご丁寧に左右で一回ずつ攻撃してきたので二回である。ドラミングも休み休みしてほしい。
     こうなれば当然、退治人事務所も特別休業だ。ジョンと私とロナルドくん(と、もしかしたら床下にヒナイチくんもいるのかもしれないが、顔を見せてこないのでひとまずノーカンとする)の二人と一匹だけの空間だった。
     と、いうわけで。
    「さあロナルドくん、存分に甘えたまえ!」
    「うるせえクソ砂ドヤ顔すんな腹立つ死んでろ」
     彼の寝そべるソファーベッドの周りをぐるぐる回ってみたら、仰向けのままのロナルドくんに片手を振り下ろされてもう一度殺された。理不尽。ジョンを泣かせるな。
    「ドヤ顔とはなんだね。どこからどう見ても頼りがいのあるパーフェクト大人な私の顔だろう!」
    「どこからどう見ても愉快犯だろうがバカ、色々滲んでんぞ享楽主義者」
     よくもまあ、ここまで人の善意を疑えるものである。前世はマラソンで一緒に走ろうと約束した友達に置いていかれて死んだのかもしれない。
     そんな哀れな人間不信ロナルドくんには、きっと優しさが必要だろう。私はもともとスーパー人格者で超寛大な吸血鬼なので、弱ったゴリラにも優しくできるのだ。さすがドラちゃん。
    「ロナルドくん、怪我の具合はどうだね」
    「あ? どうもこうも、さっき説明しただろ。ちょっと手当てが派手なだけで大したことねーっつの」
     ロナルドくんは眉間にシワを寄せて、ギプスが重くて邪魔くせえ、と腕をぶんぶんする。やめなさい五歳児。
     ほら言わんこっちゃない、顔をしかめるくらいには痛いんじゃないか。私じゃあるまいし、きみが自滅してどうする。
    「あのねえロナルドくん、きみがギプスを巻かれた理由、理解してる?」
    「そりゃ、骨が折れたからだろ」
     バカがバカな質問をしてきた、という顔をされた。だが生憎、今回のバカはロナルドくんの方である。
    「それもあるけど、大人しくしてなさいって意味でしょうよ。そうやって固めてないと、今晩も銃持ってどっか行くでしょきみ」
     大概の怪我は七日以内に元通りになる治癒力モンスターなロナルドくんのことだ、今回のこれだってすぐに治るだろう。だから、本題はそこじゃない。
    「サテツみたいに殴れば、これでも退治できるんじゃねえか」
    「そういう問題じゃないんだよ社畜バカ。せっかくこの私がいい話に持っていこうとしているのだから静かにしていてくれたまえ」
     こほん、と仕切り直す。五歳児に高等な比喩を理解する力はないので、できる限りの分かりやすさを心がける。
    「きみは無茶して、怪我をして、こうなった。ここまではいいね?」
    「……おう」
     ロナルドくんの顔がやや沈む。不甲斐なさそうにするその頬をつねってやりたくなるが、我慢だ我慢。
    「その無茶が問題だと理解したまえ。一歩間違えたら、腕どころか命を持っていかれていたかもしれないと腕の人から聞いたぞ。人間の命はひとつしかないと習わなかったのか五歳」
    「けどよ」
    「言い訳無用。その程度で済んだからいいものの、次も無事とは限らないだろう。その手当てもマスターの計らいだそうじゃないか。少しくらい不便を経験して懲りろ若造」
     日常生活に支障が出るほどのことになれば、記憶力アメーバのロナルドくんでもさすがに覚えるだろう。というか覚えろ。ロナルドくんが死んだら、ドラルクキャッスルマークIIの家賃はどうなっちゃうの、次回ドラルク死す……じゃなくて。
    「君になにかあればわた、じゃなくてジョンが悲しむ……って何故泣く」
     まあるく見開かれた、昼空の色の瞳。感情が抜け落ちたように透き通るそれから、ぼろぼろと雫がこぼれていく。
    「ああもうギプスで拭こうとするなタオル持ってくるからちょっと待ちなさい、あっありがとうジョン」
     ヌ、と差し出されたタオルを、ロナルドくんの目元に当てる。仰向けなので、顔の上半分をまるごと隠すかたちだ。
     さすがにびっくりしたらしく、セロリを見つけたときの四十分の一くらいのスケールで肩が跳ねる。
    「今治タオルだぞ若造。このふわふわに感謝の涙を流すがいい。……で、どうした急に。今さら怖くなったのか?」
     だとしたら回路が繋がるのが遅すぎるだろう。ホットプレートで温めたら、少しはRTA記録に近づくんじゃなかろうか。
     顔を隠されたロナルドくんは、しばらく唇をもそもそさせていた。声を発してからも、あーとかうーとか、そんなものばかり。一時的に赤子にまで退行したのか、と観察していると、少ししてようやく意思の疎通がはかれた。
    「……や、その、……心配されたんだなと思ったら……目が勝手に」
     わり、なんでもねえ、とロナルドくんはつっかえつっかえ誤魔化しをいれていく。バカなので、最初の素直さとの引き算ができないのかもしれない。これではデレが過多で、ツンデレにもならないだろうに。
     ため息をひとつ落としても、殺されることはなかった。
    「……ロナルドくん」
     さらりとした銀髪に、指を差し入れる。ふわふわのタオルの下ではきっと、まだ透明な涙を零しているのだろう。
     まったく、泣き方も知らない五歳児め。
    「分かったなら、もう無茶はよしなさいよ。君がいなくなったら、料理の腕の奮い甲斐が減る」
     白いタオルごしに、額に口づけをひとつ落とす。
     泣き止んだら、ロナルドくんの好きなものを作ってやろう。手が使えないからこの私自ら食べさせてやって、その後はもちろんお風呂も一緒である。
     嫌というほど構い倒せば、甘やかされ慣れていない男はひどく恥ずかしがるだろう。そうすればきっと、少しは懲りてくれるはずだから。
     起き抜けにギプス姿を見て心配で死んだ私の復讐は、簡単には終わらないのである。
     夜は、まだまだ始まったばかりだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤😭😭❤❤❤🌠🌠🌠🌠🌠
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works