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    温州みかん

    @mikaaanOP
    はるか昔に成人済み。
    ロゾの短文を時折掲載しています。

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    温州みかん

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    ロに「クソガキ」と言わせたい…
    ロゾ未満。ロゾの五歳差を自分に落とし込むための習作。

     物資の補給のために上陸したとある島で、ゾロが出航時刻になってもポーラータング号に戻らないことにローはイラついていた。整った顔立ちの、だが不健康に深く刻まれた隈のある目元に帽子の影が落ちる。ローは固い表情でウソップに問いかけた。

    「おい、鼻屋。テメェとゾロ屋は一緒に行動してたんじゃねェのか」

     こそこそとフランキーの後ろに隠れていたウソップの肩がびくっと揺れる。そーっと顔だけを出して、ウソップは引き攣った笑みを浮かべた。

    「そうなんだけどよォ。街に向かっていただけなのに気付いたら横にいねェんだよ。いや、もちろんおれ様も血眼になって探したんだぜ?でも見つからねェときた。まったくあいつの迷子癖にも困ったもんだよなァ」

     慌てたように弁明するウソップは、しかし話すうちに興が乗ってきたらしい。ゾロを探すのにどれほど苦労したか。山を超え谷を超え、手に汗握るような冒険譚(迷子探し)を臨場感たっぷりに話すウソップに、ハートの海賊団のクルーたちは感心してその労をねぎらい、やんややんやと囃し立てている。
     そんなウソップの足元には、街で買ってきたとおぼしき菓子や工作の材料がしこたま積まれていた。どう見ても時間いっぱい買い物を満喫していたとしか思えず、ゾロを探していたという話の信憑性は低い。そもそもこの島には山も谷もねェだろうが。何もいえずに気を削がれたローは、疲れたように目元に手を当てると大きくため息を吐いた。

    「もういい、おれが行く。お前たちは出航の準備を整えていろ」

     呆れたようにそう言って船を降りようとするローに、航海士であるベポが問いかけた。

    「〝ROOM〟は使わないの?」
    「どうにも見つからなけりゃ使うが……海軍も常駐してるみてェだしな。島全体に範囲を広げて、何か察知されても面倒だろう」

     ローはそう言って、変装の代わりに帽子と鬼哭をベポに渡し、ロングコートのフードを目深に被る。軽い音を立てて船から降りたローの背中にウソップが申し訳なさそうに声を掛けた。

    「頼むぜ、トラ男~。そろそろ何か騒ぎを起こすと思うから、そこに向かってくれ」
    「はァ?」

     不穏なウソップの台詞にローは思わず振り返った。ウソップは手を合わせたジェスチャーで謝罪の気持ちを示し、その横にいるフランキーとロビンも困ったように笑っている。

    「馬鹿を言うな。海軍がいるような島で騒ぎを起こすことがどれほど危険か、ゾロ屋だって十分わかっているだろう」

     尤もなローの言葉であるが、ウソップは遠い目をして言った。

    「そうなんだけどなー。でもゾロだからなァ」

     フランキーとロビンも揃ってうんうんと頷いており、ローの背筋を嫌な予感が走る。その瞬間、遠くで何かが爆発したような音が聞こえた。ローが背後を振り返ると、島の端に見える広大な森の中で、粉塵と砂埃が舞い上がるのが確認できる。

    「……たぶんゾロだな」
    「ゾロだろうなァ」
    「そうね。おそらくゾロね」
    「ァ⁈」

     ウソップは冷や汗をかきつつも諦めたように肩を落とした。フランキーはなぜか胸を張り、ロビンは感情の読み取れない笑みを浮かべている。ローは自分のこめかみに浮かんだ太い血管が、音を立てて弾けたような気がした。

    「何をしているんだ、あいつは!」

     焦ったような表情でそう吐き捨て、シャンブルズで姿を消したローに対し、ウソップはお願いしますの意を込めて改めて手を合わせた。

    ▽▼▽

     能力を駆使して爆発があった森の中に入ったローは、鬱蒼とした木々の間からドカンと音を立て、木の葉を撒き散らしながら弾丸のように飛び出してきたゾロとばっちり目があった。

    「お!トラ男」

     こちらに向かって走りながら軽い調子で声を掛けてきたゾロに、ローの怒りが増す。

    「何してんだ、テメェは!」

     思わず怒鳴りつけたローだが、ゾロの様子に気付いて目を見開いた。今日のゾロは変装のため、モスグリーンのパーカーに黒い化繊のカーゴパンツ、目立つ髪色と目の傷を隠す黒いワークキャップを被っているが、問題はそこではない。片手に見知らぬ子供、もう片手に何やらふわふわとした丸い玉を抱えている。そしてゾロ自身も森を駆けたためかあちこちに細かい裂傷をこさえており、右脇腹からは多量に出血でもしているのか、モスグリーンの上着をドス黒く染めていた。

    「話は後だ!テメェはとりあえずコイツら連れてどっか行け!」

     そう言ってゾロは子供と丸い玉をローに押し付け、踵を返して獣のような動きで森の奥深くへと駆けて行った。

    「おれに命令するな!なんだコイツらは!」

     声を荒げて問いかけたローだが、ゾロの姿は既にない。腕の中にある温もりのある重さに居心地の悪さを感じ、ローはチッと舌打ちをすると預けられた子供に視線を落とした。歳の頃は十歳程か。こげ茶色の癖のある髪を耳の辺りで切り揃えた愛らしい顔立ちの少年が、半信半疑といった様子でローを伺っていた。

    「お兄ちゃん、ゾロ兄ちゃんのお友達?」

     おそるおそる尋ねる少年に、ローは苦虫を噛み潰したような顔で答える。

    「お友達ではねェ。同盟相手だ」
    「同盟相手って何?」
    「…………」
    「ねえ、何?」
    「……少なくとも、敵ではねェよ」

     ローとしては実はゾロに対して思うところがなくもないのだが、今のところは〝ただの同盟相手〟である。ローの複雑な胸中など知るよしもない少年は、〝敵ではない〟という言葉にひとまず安心したようだった。

    「それよりもお前は誰だ。ここで何をしていた」
    「おれはリヒト。そいつは友達のチッチ」
    「チチッ」

     ローの手の中で丸い玉が鳴いた。驚いて手元を見ると、メロンほどの大きさの玉からは丸い身体に沿うような翼と短い脚、小さなくちばしが生えていた。ずいぶんと丸いが、鳥だ。艶のある紫紺色の顔を持つその鳥は、翼の先に掛けて赤くなる虹色の羽根を持っていた。ビー玉のような丸い瞳が小首を傾げてローを見ている。

    「……なんだコイツは」
    「だから友達だって」

     今言ったじゃん、と口を尖らせながら偉そうに言うリヒトに若干イラッとしつつローは尋ねる。

    「なんでお前と友達はゾロ屋に抱えられていたんだ」
    「そうだ!ゾロ兄ちゃんッ!」
    「待て!とりあえず説明しろ!」

     慌てて森の奥へ駆け出そうとするリヒトを、ローは首根っこを掴み引き留めて叫んだ。

    ▽▼▽

     ──リヒトの話すところによると、チッチは〝ナナイロマルチョウ〟と呼ばれるこの島にしか生息しない珍しい鳥で、虹色の美しい羽根を持つ希少な鳥として高く売れるらしい。飛ぶのが苦手なため捕まえやすく、密猟者が耐えないために海軍が常駐しているのだとか。

    「昼寝してたゾロ兄ちゃんとチッチが仲良くなったんだ。それでおれとも友達になったんだけど、そこに密猟者達がやってきてさ……」

     ゾロは一度リヒトとチッチを逃がしたらしい。だがリヒトは、強面だが気の良い兄ちゃんといった風のゾロが大勢の密猟者に囲まれて無事なのかが気になってしまった。戻ったところを狙われ、ゾロがリヒトたちを庇って怪我をしたというわけだ。

    「だから、助けに行かなきゃ!」

     焦りを浮かべた深刻な表情で森の奥を見据えるリヒトだが、そこらの密猟者ごときが億越えの賞金首であるゾロをどうこうできるとは思えない。だが怪我の具合が気になることもあって念のため様子を見に行くかと振り向いたところ、鬱蒼とした木々の間からまたしてもドカンと音を立ててゾロが弾丸のように飛び出してきた。

     ──今度は海軍を引き連れて。

    「待て、密猟者ァ!」
    「だから!おれはちげェって!」

     うんざりといった体で走るゾロの無事な姿に、リヒトが両手を上げて喜ぶ。

    「ゾロ兄ちゃん!」
    「おう、リヒト」

     ニッと笑ったゾロが、ローとばっちり目を合わせて言った。

    「トラ男、全員飛ばせ!」

     不機嫌そうに顔を歪めたローが、上げていた左手を翻す。

    「〝シャンブルズ〟」

     一瞬で姿を消したゾロたちに、追っていた海軍は呆然と立ちすくむ。その頭上では四枚の木の葉が風に吹かれてひらひらと舞っていた。

    ▽▼▽

     能力を使って森の入口に降り立ったローは、ストンと軽い音を立てて横に立ったゾロに掴みかかった。

    「良いか、ゾロ屋!お前が『飛ばせ』と言ったとき、おれはすでに〝ROOM〟を展開していた。つまりおれは既に全員逃がすことを決めていたんだ。お前の命令を聞いたワケじゃねェからな!」
    「あ?おれが先だろ」
    「断じて違う!それになんなんだテメェは、海軍を引っ張り出すような真似をしやがって!」
    「あれはなりゆきだ」
    「なりゆきでトラブルを起こすんじゃねェ‼︎」

     額に青筋を浮かべてこんこんと説教をするローだが、ゾロは柳に風と受け流して微妙にズレた答えを返している。しかしよく見るとゾロは額にうっすらと脂汗を滲ませており、パーカーだけでなく黒いボトムスも血で濡らしていることに気付いて、ローは忌々しそうに眉をひそめた。
     
    「怪我までしやがって……このタイミングで微かでも戦力が減ることは許されねェぞ。戻ったらすぐ治療する。いいな」
    「こんなん大したことねェよ。寝れば治る」
    「それは医者であるおれが決めることだ。テメェは黙って治療されろ、怪我人が」

     瞳孔をカッ開いて威圧的に言い放つローの剣幕に、ゾロは少したじろいだ。失態を演じた自覚はあるのか、バツが悪そうな顔で押し黙り、そっぽを向く。
     拗ねたように口を尖らせたゾロの表情は存外に幼かった。無防備に晒された頬から顎のラインは削いだように鋭いが、そこにほんの少し残された柔らかさがやたらとローの目を引く。聞き分けのないガキのような態度を見せるゾロに、ローはゾロが自身より五歳も下である事実に思い至って無意識のうちに舌を打った。

     そのとき、急に飛ばされたことで尻餅をついていたリヒトががばっと勢いよく起き上がって声を上げる。

    「ゾロ兄ちゃん!アイツらは⁈」

     リヒトとしては密猟者の動向が気になるのは当然だ。ゾロはリヒトのこげ茶色の頭をポンポンと意外なほど優しい手つきで撫で、怪我などみじんも感じさせない強気な表情で笑った。

    「あァ、倒した。騒ぎを聞きつけてちょうど海軍が来たからよ。全員捕まったぜ」
    「ホント⁈」
    「おう」
    「やったァ‼︎」

     両手を挙げて喜ぶリヒトだが、ゾロの怪我に目をとめると眉を下げて瞳を潤ませた。

    「ごめんよ、おれのせいで……」

     ゾロはふっと目を細め、こげ茶色の髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。

    「こんなん何でもねェ。すぐ治る」
    「本当?」
    「あァ。医者もここにいる。心配すんな」

     そう言ってローを指差したゾロに、ローは片眉を上げた。リヒトがぱっと顔を上げてローを見る。

    「お兄ちゃん医者なの?」
    「あァ」
    「ゾロ兄ちゃん治せる?」
    「適切に処置すればな。だが早めに戻りたい」
    「そっか、良かったァ」
    「フン。しかしゾロ屋、なんでテメェ海軍に追われてやがった」
    「あ?奴らの仲間と間違われたんだよ」
    「……お前のツラじゃ仕方ねェな」
    「うるせェな!」
    「まァ取り逃したと思ってんなら、密猟に対する警備もキツくなるだろう。結果オーライだ」
    「そっかァ‼︎もう大丈夫だよ、チッチ〜!」
    「チチチィ!」

     喜ぶリヒトの傍ら、チッチが虹色の美しい羽をばたつかせてゾロの胸元に飛ぶ。ゾロが両手でチッチを受け止めるとふわふわとした柔らかさと確かな温もりを感じた。チッチは丸い身体を擦り付けて全身で感謝と喜びを示している。

    「おう、良かったなァ。お前」
    「チチッ!」
    「ゾロ兄ちゃんと、同盟のお兄ちゃん。ありがとー!」
    「オイ……おれ達ァ動物愛護団体じゃねェんだぞ」

     海賊が一体何をしているのか。大袈裟に感謝されてむずがゆい気分になったローは、ことさら尊大な態度でフンと鼻を鳴らした。

    ▽▼▽

    「ゾロ屋ァ!テメェ包帯取りやがったな!」

     無事に出航をすませ、海中深くへとその身を隠したポーラータング号にて。キッチンの扉を開けてゾロの姿を見つけたローは思わず声を荒げた。

     リヒトとチッチと別れたあと、ローはゾロを連れ、能力を使って一気に船まで飛んだ。そして面倒くさがるゾロを強引に医務室に押し込み、怪我の診察と治療を施した。刃物で裂かれていた傷を縫合し、患部を動かさないよう包帯で固定、血を失っているために安静を言い渡したはずだ。その時に巻いた包帯が、なぜか一時間も経たないうちに解かれてキッチンの端に置かれている。

    「おう。動きにくいからな」

     ゾロはローの剣幕を意にも介さない。全く悪びれないゾロは、キッチンの椅子にどっかり座って何やら液体の入った瓶を傾けている。

    「動かねェように巻いてンだ!その飲んでる瓶の中身はなんだ⁈まさか酒じゃねェだろうな⁈」

     青筋を立てて怒鳴りつけるローだが、ゾロは何を言ってるんだとばかりに首を傾けた。

    「あ?酒に決まってんだろ。他に何があんだよ」

     やれやれ……とため息を吐きながら勝手に棚から取り出した酒をかっ喰らうゾロに、ローは自分のこめかみに浮かぶ太い血管が音を立てて弾けたような気がした。(二回目)

    「こんの、くそガキがァ‼︎」

     ちったァ言うことを聞きやがれ!ブチ切れたローの怒鳴り声が、ポーラータング号のキッチンに響いた。

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